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» 2013年07月10日 12時55分 UPDATE

ロボット教育:「好奇心を刺激し、失敗を奨励する学び」――新型レゴ マインドストーム EV3ソフト開発者が語る

2013年9月に発売される「教育版レゴ マインドストーム EV3」の専用プログラミング環境「教育版 EV3 ソフトウェア」を開発した米タフツ大学教授クリス・ロジャース博士が日本のエンジニアや教育者向けのワークショップに登壇。課題を解決する力・新しいものを創造する力を養うための学び方を指南した。

[佐々木千之,MONOist]
レゴ マインドストーム EV3

 2013年6月29日、日本科学未来館において「エンジニア&教育者のための教育版レゴ マインドストーム EV3 スペシャルワークショップ」(主催:アフレル)が開催された。

 同イベントは、同年9月に発売される「教育版レゴ マインドストーム EV3」(以降、EV3)を、エンジニアや教育関係者に向けて紹介するものだったが、特筆すべきは、その講師がEV3の専用プログラミング環境「教育版 EV3 ソフトウェア」の開発者である米タフツ大学(Tufts University)教授のクリス・ロジャース(Chris Rogers)博士だったことだ。

>>関連記事:発売前の「教育版レゴ マインドストーム EV3」を一足お先に触ってきた!

教育版レゴ マインドストーム EV3 教育版レゴ マインドストーム EV3

 ロジャース博士はタフツ大学のエンジニアリング教育&アウトリーチセンター(CEEO:Center for Engineering Education and Outreach)に所属。その中で、子どもの学び(子どもたちがいかにして学ぶか)に関する研究と、それを踏まえ、どのようにしてエンジニアリングの世界と子どもたちの学びを結び付けていくか、そして、実際の教室の中でそれをどのように実践していくかの研究をしている。レゴ社とロジャース博士は、子どもたちがエンジニアリングを楽しく遊びながら学べることを目指し、15年間共同研究を進めてきた。こうした長年の取り組みの成果が教育版 EV3 ソフトウェアに生かされている。

 イベントの中では、ロジャース博士の講演も行われた。子どもに課題を解決する力を身に付けさせるための方法について語られたが、子どもに限らず大人にも通用する興味深い内容であり、人材教育においても通用する示唆に富んだものだった。本稿では、その講演について抄録で紹介する。

教育版 EV3 ソフトウェア(提供:アフレル) 「教育版 EV3 ソフトウェア」の画面イメージ(提供:アフレル)

「好奇心」を持たせ、「失敗すること」を教える

米タフツ大学(Tufts University)教授のクリス・ロジャース(Chris Rogers)博士 米タフツ大学(Tufts University)教授のクリス・ロジャース(Chris Rogers)博士

 「子どもたちに教えていきたい(学んでほしい)のは、新しいものを創り出していく、開発する、そんな力です。そこでは、『独創性(クリエイティビティ)』が必要となってきますし、『物事を考え出す力(イマジネーション)』も必要になってくるでしょう。

 独創性とは、それぞれ1人1人が違う結果にたどり着き、違うものを見つけ出すことです。そして、そこからそれぞれの違い感じることで新たな発見へとつなげていきます。そのためには、他の人が誰もやったことがないようなことをしていく、つまり“リスクをとる”必要があります。リスクをとって何かにチャレンジするときに付き物なのは“失敗”です。子どもたちに“失敗すること”を教えるのが大切なのです。

 つまり、失敗することを奨励するわけですが、そのために必要なことは、きちんと整理された分かりやすい課題ではなく、“何だか分からないようなゴチャゴチャとした課題を与えること”です。その課題の中から1人1人の学習者が自分自身の答えを見つけ出すことができるような課題を与えることが重要なのです」(ロジャース博士)。

 講演に先立って行われたEV3ワークショップの中で、ロジャース博士が参加者に出した課題の1つに「タイヤを使わずに前進するものを作れ」というものがあった。

 筆者もこのワークショップに参加したのだが、「これはタイヤの部品を使うなということか? それともタイヤのように回転して前進させるのがダメということなのか? もう少し説明がほしいな」などと感じていた。結局、筆者はスキーのストックのようなものを床に突きながら動くものを作った(動くだけでうまく前進しなかったが……)が、他の参加者の作品はそれぞれに全く違うものであった。まさに博士の言う1人1人が自分自身の答えを見つけ出す課題だったわけだ。

EV3ワークショップ ロジャース博士が指導したワークショップの最初の課題「タイヤを使わずに前進するものを作れ」に対する参加者の答え(の一部)。十数人の参加者の作品はそれぞれかなり異なったものになった


 「こうした考えをすぐに理解し、実践できるかというと一筋縄ではいきません。先生方に対して、私は『子どもたち1人1人が正解にたどり着くのではなく、違う答えを得ることができるような、そんな指導をする』などと説明しています。こうした課題によって、それぞれが違う答えを得たとき、そこに“学び”があるのです。生徒の数だけ答えが出たかどうか、どれくらい違う答えを生徒が見つけたかが、授業の成功の基準になるのです。

 さらに、“教える”ということについてのポイントですが、まず子どもたちに“好奇心”を持たせることです。すると、子どもたちはそれがなぜそうなっているのか知りたくなります。『なぜ?』『どうして?』という質問を自分にするわけです。そこから、子どもたちは自分が知っていることを使って、1人1人の答えを見つけ出そうとする“学び”が始まります。そうして、何か答えが出たときに、今度はそれが本当に思った通りにいくかどうか“試してみる”という行動につながっていきます。このことによって、子どもたちが積極的に学んでいくのです。

 こうした学びは、既存の学習や試験のための学習のようなアプローチでは得ることができません。子どもたちの興味、好奇心を引き出していくために必要なのは、先生や指導者自身が答えを知らないような、そういう質問をすることです。そして、次にすべきことは、子どもたち1人1人が抱いたいろいろなアイデアを聞くということです。そして、アイデアを形にしてみせるための手助けも必要になります。

 これまで一般的な学校教育の現場では、先生が生徒たちに何かを伝える、話をするという場面が非常に多く、逆に、生徒たちから話を聞く時間はあまりありませんでした。そこを大きく変えていかなければいけないということなのです。最初に興味を持たせ、そこから何かアイデアを得させて、そのアイデアを形にし、それが本当に考えた通りになるかどうか確認させます。そして、そこで終わるのではなく、他の場面でどう生かすことができるか、そこまでつないでいきましょう」(ロジャース博士)。

講演中のロジャース博士 講演中のロジャース博士

――ここで博士はレゴ マインドストームを使った、小学生が作ったハンバーガー製造装置や、大学生が作ったルービックキューブを解く装置などさまざまな学びの例を紹介した。

 「このようなことを学習者たちが自らやり遂げられる学習環境を整えるために必要なのは、最初に申し上げたように“リスクをとる”ことです。失敗することを前提としたような課題を与えることです。失敗は多ければ多いほどいいのです。ですから、失敗しないようにするのではなくて、失敗するように奨励していきましょう。答えが1つしかないような課題では、子どもたちが工夫する余地がありませんので、答えがないものを与えましょう。

 先生が全てを教えるという考え方をやめて、例えばクラスの中に組み立ての技術を持っている生徒がいる、もしくはプログラミングに詳しい生徒がいるなら、そういった生徒に他の生徒を教えさせればいいのです。お互いに教え合う、学び合う姿勢を生かしていきましょう。

 今まで申し上げたようなことを教室の中で実現していくために一番大事な要素は、“楽しむ”ことです。学習者が楽しんで取り組むように導いていきましょう。

 これで終わりです。どうもありがとう」(ロジャース博士)。

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