新型「フィット ハイブリッド」燃費世界一の立役者、「i-DCD」の仕組みエコカー技術(2/2 ページ)

» 2013年09月06日 07時00分 公開
[朴尚洙,MONOist]
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なぜハイブリッドシステムにDCTを採用したのか

 i-DCDの“肝”となるのが、7速DCTの採用であろう。ホンダが従来のハイブリッド車に採用してきたIMAでは、CVT(無段変速機)と組み合わせるのが基本だった。しかし、i-DCDでは、CVTやAT(自動変速機)ではなく、四輪車に搭載した経験のないDCTを採用した。その理由は、「世界一の燃費性能を達成するためには、CVTやATよりも圧倒的に伝達効率の高いDCTを採用する必要があったから」(ホンダの説明員)だ。

 新型フィットでは、ガソリンエンジンとともにCVTも新たに開発した。このCVTの伝達効率は80%台で、CVTとしてはかなり高い。しかし、i-DCDの7速DCTの伝達効率は90%台とさらに上回る。その一方でDCTは、伝達効率が高いものの、変速時のショックや振動が発生しやすく走行性能や乗り心地を悪化させる方向に働くと言われている。ショックや振動を抑えるには可能な限り最適な変速制御を行う必要があるのだ。

i-DCDの中核となる排気量1.5lアトキンソンサイクルエンジンと7速DCTのカットモデル i-DCDの中核となる排気量1.5lアトキンソンサイクルエンジンと7速DCTのカットモデル。左側がエンジンで右側が7速DCT。7速DCTの右端にモーターが内蔵されている(クリックで拡大)

 i-DCDはこの問題をどのようにして解決したのか。ホンダの説明員によれば、「ハイブリッドシステムの駆動力はエンジン以外にモーターからも得られる。エンジンとモーター、2つの駆動力をうまくバランスさせる制御を実現することで、ショックや振動を抑えることができた」という。しかし、この制御を行うためのソフトウェア開発は難航を極めた。「i-DCDの開発で最も大変だったと言っても過言ではない。ハイブリッドシステムの制御ソフトウェアの規模も、IMAと比べて2倍以上に膨らんだ」(同説明員)。

 トランスミッションをCVTからDCTに変更することで、よりリニアな加速も得られるようになった。ホンダ社長の伊東氏は、「フィット ハイブリッドは、世界一の燃費性能の実現だけでなく、どれだけ気持ち良く走れるかについても注力した」と述べている。

世界初ではなかったハイブリッドシステムへのDCT採用

「i-DCD」の7速DCTの内部構造 「i-DCD」の7速DCTの内部構造(クリックで拡大) 出典:ホンダ

 このように、i-DCDはDCTとの組み合わせを特徴としている。しかし、DCTを採用したハイブリッドシステムとして世界初というわけではない。Volkswagen(フォルクスワーゲン)が2012年11月に発表した「Jetta Hybrid(ジェッタ・ハイブリッド)」に搭載したハイブリッドシステムは、同社が得意とする7速DCTを用いているのだ。

 しかし、このハイブリッドシステムの場合、エンジンと7速DCTの間に、モーターと、エンジンとモーターを切り離すためのクラッチが組み込まれているのだ。DCTと合わせれば3クラッチとなる。

 これに対してi-DCDは、エンジンとモーターを切り離すためのクラッチは使用していない。さらに、7速DCTの1速を、DCTで一般的な常時噛みあいギヤからプラネタリーギヤに変更して小型化した。このため、モーターをDCTに内蔵することができた。追加のクラッチを使わずに、モーターもDCTに内蔵したので、フィット ハイブリッドのような5ナンバーの小型車にも搭載可能なサイズを実現できた。

モーターとIPUも進化

「i-DCD」のモーターの磁気回路 「i-DCD」のモーターの磁気回路。補助突極を設けてリラクタンストルクを活用しやすくした(クリックで拡大) 出典:ホンダ

 モーターもIMAと比べて性能を向上している。i-DCDのモーターは、先述した通りDCTに内蔵しているので、トランスミッションオイルを冷却に利用できる。モーターの最高出力はIMAの10kWから22kWになったため、その分多くなる発熱量に対応した冷却性能が必要になるが、油冷による冷却効率の向上による空冷だったIMAと同じサイズに収めることができた。最大トルクも、78Nmから160Nmに向上しているが、これは補助突極を設けたことによって得られやすくなったリラクタンストルクの効果が貢献している。

 電池パックやインバータ、DC-DCコンバータなどを搭載するIPUも大幅に進化した。まずは、従来のフィット ハイブリッドで使用していたニッケル水素電池を、リチウムイオン電池に置き換えた。これによって、電池パックの最大出力は100Vから173Vまで高められ、モーターの出力向上につなげることができた。エネルギー密度の高いリチウムイオン電池の採用と、インバータとDC-DCコンバータなどから構成されるPCU(パワーコントロールユニット)のコンパクト化により、IPUの体積を従来比で23%、重量を同6%削減した。IPUを空冷するための冷却風の流れを工夫して、電池パックとPCUを横に並べて配置できるようにし、荷室の高さを確保できるようにした。

「i-DCD」のIPUのカットモデル 「i-DCD」のIPUのカットモデル。左側にPCU、右側に電池パックを配置している(クリックで拡大)
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