「半沢直樹」のような組織では無理! 魅力的な製品作りとクラウドファンディングマイクロモノづくり概論(3)(1/2 ページ)

筆者が関わったマイクロモノづくりの3事例から見えたクラウドファンディングで成功する秘訣は、製作者の等身大の姿が思い浮かぶ製品づくりだった。「倍返し」することばかり考えなければならない組織では、多くの共感を得る製品作りは実現不可能だ。

» 2013年10月18日 10時00分 公開
[三木康司/enmono,MONOist]

 筆者が代表を務めるenmonoでは、中小企業の2代目、3代目経営者を対象に「マイクロモノづくり経営革新講座」という経営者育成塾を2カ月に1度開催している、現在は6期を終え、7期の参加者を募集しているところだ。

 この講座の卒業生の約4分の1が何らかの自社製品をマイクロモノづくりにより生み出している。卒業生たちが生み出した製品を眺めていて、気が付いたことがある。その製品が作り手そのものの性格をそのまま反映している、つまり「作り手:作品」の関係が限りなく「1:1」に近くなるということだ。……この表現、少々分かりにくいかもしれないので、メーカーにおけるモノづくりと従業員の関係に置き換えて説明する。

 例えば、従業員1万人の企業で自動車を1台作るとしよう。乱暴な表現かもしれないが、その生み出した自動車に対しての従業員1人の貢献度は、1万分の1となる。1000人の会社であれば貢献度は1000分の1、10人の会社なら10分の1だ。さらに、1人の会社であれば、1分の1(1:1)となる。

 自動車をたった1人で一から作ることは、さすがに現実的ではない。だが、マイクロモノづくりで生みだすような小規模な製品であれば、構想、設計、製造、プロモーション、販売までを一人で、一気通貫で十分行える可能性がある。そのようにして生み出された製品は、その製品を生み出した主の性格を強く反映することになる。実際、筆者が過去にMONOistの記事で紹介したマイクロモノづくり事例のほとんどは、生み出した製品に製作者の性格がそのまま反映されたようなものになっている。

 これら、マイクロモノづくりの手法を用いて生み出された製品と、製作者の関係を実際の事例をベースにした対比表(表1)を作った。

表1 製作者と生み出したマイクロモノづくり製品の対比

 製品の生み出されたストーリーや製作者に筆者らが深く関わってきた故に、製作者や製品の印象についての表現は、少々客観性に欠けるかもしれない。しかし「製品に製作者の人柄がそのまま表れている」ということを、読者の皆さんに分かりやすく伝えるために、あえてそのような表現とした。

 「製作者の性格が製品に反映されている」とはどういうことか。例えば「iPhone Trick Cover」の事例では、製作者であるニットーの代表取締役 藤沢秀行さんの、モノづくりへ極めて真面目に取り組む姿勢と、ちょっとおちゃめな雰囲気と、常にスピード感をもって新しいことに挑戦するという面が反映されていたと思う。直接会えばすぐに分かってもらえる思うのだが……、とにかくそんな印象が、iPhone Trick Coverが持つ「人を笑顔にする」「スピード感がある」「ワクワク感」を反映しており、プロモーションビデオのトーンにもそれが直球で反映されていた。

 非常に微細な金属製バネを使った新感覚の金属バネブロックである「SpLink」(スプリンク)の事例では、製作者である五光発條の代表取締役 村井秀敏さんの、非常ににぎやかで明るいパワーを映している(村井さんの所属する異業種グループ「心技隊」でのあだ名は、「スーパーガヤ」である)。また、自社の主力であるばねを心から愛している。そんな愛すべきキャラクターが、金属バネブロック「SpLink」で遊んだ人、それを見た人をみな「笑顔にさせる」、遊んでいる時の「ワクワク感覚」、遊んでいる人同士を「人とつなげる」という機能をそのまま反映させているように思う。

 プリント基板をアートにした「Healing Leaf」も同様だ。ケイ・ピー・ディの代表取締役 加藤木一明さんは、普段は非常に静かで真面目な人だが、その心の内にはパワー(情熱)を秘めている感じがした。Healing Leafもその表面上の美しさとは異なり、その内部に、機械式時計のように生真面目な精密さと美しさを秘めている。

 このように、マイクロモノづくりの製品には製作者の人柄が如実に表れていると筆者は考えるのである。

製作者の人柄が反映された製品の利点

 製作者の人柄が製品の全面に表れるということが、製品化をする時にどのような利点があるだろうか。

 例えば、前回のマイクロモノづくり概論(2)で紹介したように、クラウドファンディングのプロモーション動画に製作者自身が出演して製品をアピールすると、大きな共感を呼べる。それは、製作者の表情や言葉から感じ取れる魅力や雰囲気が、そのまま動画から醸し出されているからだと考えている。

 enmonoでは、プロモーション動画について、余計な演出はせずに、製作者の“ありのまま”が反映できる内容を提案している。当社のコンサルティングでは、まずプロジェクトオーナー(製作者)の性格をよく理解することから始める。その上で、最も効果が大きいと思われる構成になるようにプロジェクトオーナーと話し合い、ディレクションしてきた。こうすることで、出品した製品の「共感度」が向上し、結果として多くの寄付金を集めることへとつながった。

 クラウドファンディングで、実際に寄付金を投じた人であれば分かると思うが、掲載されているプロダクトやサービス自体の人気もさることながら、「どんな人が、どのような目的で、そのプロジェクトを行っているのか」ということが、寄付が集まるか否かの大きなポイントとなる。「モノ」に寄付するのではなく、「人」に寄付をするのである。従って、「その人自身」が「モノ」になっている製品が掲載されたプロジェクトほど、大きな共感を呼び寄せ、それが寄付へとつながるのである。

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