中小製造業の現役経営者だらけで運営する新メディア――あえて欧米で、紙雑誌代わりに海外で商談してきます

中小製造業の現役経営者たちが新メディアを作ろうと思ったきっかけは、欧州に営業に行った際に「もっと日本の中小企業は自分からアピールしに行かなければ」と考えたからだという。しかも“紙離れ”が進む今、あえて“紙の雑誌”で挑む。

» 2013年10月18日 21時20分 公開
[小林由美,MONOist]

 インデックスライツは2013年10月18日、同社が立ち上げた製造業向けメディア「Indexrights」の内容やビジネス方針などを明らかにした。同社の設立は2013年3月11日。

 インデックスライツの9人の設立メンバーは、取締役社長の飛山昌久氏以外、中小製造業の現役経営陣・管理職が中心。飛山氏は、設立前までスウェージング加工を得意とする小林眼鏡工業所に勤務していた。同社代表取締役と雑誌責任者は、制御盤メーカーの三笠製作所 代表取締役 石田繁樹氏が務める。

インデックスライツ 設立メンバー:(左から)小澤良太氏(東京チタニウム )、江波明氏(エナミ精機)、橋爪良博氏(スワニー)、永森久之氏(錦正工業)、飛山昌久氏、石田繁樹氏(三笠製作所)、鈴木隆史氏(栄鋳造所)、恩田健帥氏(コーシン)、(右上:当日不在)西村昭宏氏(西村金属)

 同社がアジアや欧州10カ国の現地で聞き取り調査をしたところ、海外メーカーは大小問わず、日本の中小企業の加工技術や最終製品情報を十分に得ていないことが明らかになった。優秀な企業の発掘方法や、日本から高品質・短納期で製品を購入する方法が認知されていないという。同社ではそこがビジネスチャンスだと捉え、日本の中小企業と海外企業を橋渡しするためのメディア事業を開始したとのことだ。

 雑誌のデザインや体裁、内容などを読者に評価してもらうためのIndexrightsの「第0号」(テスト号)を2013年8月に発行。第1号は、テスト号の結果を基に改善し、2013年12月末を予定しているということだ。

 同社のビジネスの柱となるのは、以下の3つ。

  • 製造業向けマガジンの発行(紙雑誌)
  • 製造業向けWebサイトの運営
  • 海外商談の代行

 紙雑誌とWebサイトで、日本の中小企業の技術を紹介していく。当面は英語版のみで、日本語版はない。将来、徐々に多言語化していきたいという。Webサイトは、日本の他、ドイツやロシアなどにもサーバを設置し、現地でのアクセス性を高めていくという。

 読者は、当面は欧米メーカー関係者を中心に広げていく。会員は海外での商談を望む日本の中小企業が対象。会員になると、インデックスライツの記者が取材に行って記事執筆し、紙とWeb両方のメディアに掲載する。紙雑誌は隔月発行。

 会費は年間で60万。同社の収益の要は、主に純広告の収入と会員から募る会費となる。「会員数は現在約20社で、1年後までに400社前後を目指す」と飛山氏。

 国内外のメディアでは、「紙離れ」が進んでおり、デジタルマガジンやWebサイトが主流になってきている。そんな状況で、あえて「紙の雑誌を作る」という選択は、常に議論になってきたという。紙メディアはとにかくコストが掛かるので、Webメディアだけにしてはという意見も出たそうだ。

 「欧州でメディアを案内したときも、『今の時代に紙なのか』と確かに言われた。だがモノづくりの当事者だけに、“現物”の強みを知っているし、それを信じてやってみたいと考えた」と設立メンバーで営業本部長を務める鋳造メーカー 錦正工業 代表取締役の永森久之氏。

 なお、エディトリアルデザインや記事の執筆については、外部の協力者や製造業メディアの経験者が担当しているとのことだ。

 また日本、ドイツ、米国、香港、アラブ首長国連邦(ドバイ)、ロシアにショールームを備えたオフィスを置き、日本の会員(クライアント)の展示品やカタログなどを展示するという。

 本社の拠点は福井県坂井市だが、実際の活動は設立メンバーが本業の拠点を軸に各自で動く。アジアや北米など海外の各エリアを分担し、担当エリアの代行商談などを担当する。メンバーの本業は、精密板金、鋳造、設計と分野がさまざまだ。商談では、それぞれが強みとする分野も生かすようにしていく。

 設立メンバーで欧州の事業と技術顧問を担当する設計会社 スワニー 代表取締役の橋爪良博氏はこう話す。「スワニーは設計会社なので、(商談などで)特に設計関係の話になったときに力になれると考えている。メディア運営については、取材ということでライターに同行すれば、一企業の営業のために訪問したときには聞けない話が聞けそうでよい」。

大槇精機 代表取締役社長の大町亮介氏

 今回の祝賀に駆け付けた精密加工業の大槇精機 代表取締役社長の大町亮介氏は、「実際に、新しいアクションを起こしたことが、素晴らしい。中小製造業の経営者は『何かしなければ』と日頃考えているものだが、アクションが起こせない。アクションを起こせるか、起こせないかは天と地ほどの差があると思う」とエールを送った。

ミナロ 代表取締役の緑川賢司氏

 中小製造業のモノづくり競技イベントである「全日本製造業コマ大戦」を仕切る木型メーカーのミナロ 代表取締役の緑川賢司氏は、「コマ大戦も、『日本にいながら世界へ届けたい』という思いは同じ。2013年12月末にはジャカルタ大会を開催し、2015年中には世界大会も計画している。インデックスライツの力を貸してほしい」と話しており、今後、何らかの協調があるかもしれない。

そもそもどうしてこんな話になったのか

 「メディア運営が一番の目的ではない。あくまで、自分たちを含む日本の製造業が幸せになれるようにするための1つのツールである」と永森氏は話す。「それぞれ、自社のためにどうしたらいいか考えていたのが、やがて日本の中小製造業全体のことを考えるようになった。その場にいた9人の意見が自然と同じ方向を向いたのは面白い」。

 設立メンバーの9人は、それぞれ拠点がばらばら。以前からFacebookで交流を続け、仕事だけではなくプライベートの話題も共有してきた。その交流の中で、ドイツを中心とした欧州を営業して回ろうということになった。この出張の目的は、皆、「自社のため」だった。現地に到着してから、それぞれ別行動でメーカーを営業してまわり、夜になると集まって、情報交換していたそう。その中で、ある1つの方向性が見えてきて、それが日本の製造業全体の将来のことを考えることへつながったということだ。

 そこで話題になったのが、「日本人は、自分からなかなか売り込みにいかない」ということ。同じアジア人でも、中国人や韓国人はぐいぐいと欧米メーカーに売り込んでいくが、日本人にはそこまでの勢いがない。特に、中小製造業の場合が顕著であるようだ。

 一方、欧米のメーカーは、日本製造業の技術の優秀さは知っているが、縁があれば使ってみたいと考えていても、あちらからアプローチしてこない限りは、自分たちからアプローチすることはないと考えているものらしい。

 永森氏も、ドイツの鋳造メーカーを訪問したが、「日本の中小製造業が直接ウチに来たのは初めてだ!」と驚かれたという。これまで大手メーカーが下請けメーカーを連れてやってきたケースばかりだったと打ち明けられたそう。

 「自分たちから売り込みにいかない」理由には、日本人の良くも悪くも「奥ゆかしい」気質が起因するところも多少あるのかもしれないが、実際は「売り込みにいきたいけれど、いけない」場合も多いようだ。それに、日本の中小製造業関係者には英語が弱い人も多い。

 「中小企業は、海外へ商談に行きたいと思っても、金銭や時間的な問題がネックになる。その負担をインデックスライツの活動で肩代わりできればと考えている」(永森氏)。

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