ちょっと一休みして「技術翻訳」の話【その2】 〜オフショア開発とご近所付き合い〜山浦恒央の“くみこみ”な話(59)(2/2 ページ)

» 2013年11月13日 10時00分 公開
[山浦恒央 東海大学 大学院 組込み技術研究科 准教授(工学博士),MONOist]
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模範解答

 英語の方が効率の良い表現もあります。例えば、米国で遊泳禁止の池があると、よく、「Do not swim unless otherwise mentioned.」のような「警告メッセージ」が書いてあります。日本語に訳すなら、「遊泳可と書いてある場所以外での遊泳を禁ずる」でしょうが、なんとも回りくどい……。この英文メッセージを見る度に、英語の簡潔な言い回しに感心し、うらやましく思います。

 では、宿題の“模範解答”を以下に示します。


前回の宿題:以下の英文を日本語に訳してください。

If the remaining memory is 256 bytes or more, you can save another file.



模範解答:

メモリが256バイト以上残っていれば、ファイルをもう1つ保管できます。



image

 なんの新鮮味も変わったところもない、ごく当たり前の日本語です。普通のプログラマーが普通に書いた文章のように見えます。技術翻訳では、肩肘張ったごつごつした文章や、元の英文が透けて見える文ではなく、いつも書いている通りに書いた「ごく普通の技術文書」を求めているのです。いつも書いているごく普通の技術文書は、長さも短いし(上記の場合も、訳文は原文に比べると、10%近く短くなっています)、非常にシンプルです。

 さらっと読める技術文書を書くには、相当の文章力が必要です。落語を聞きに行って、「あぁ、この噺(はなし)家はうまいなぁ」と思わせる落語家はまだまだ発展途上人で、もっと上手くなると、客は落語家の話力ではなく、話の内容に没頭し感情移入します。舞台で落語家が語っているのではなく、話がわき出て、話のシチュエーションを頭に浮かべて共感する状態になります。翻訳文も同じで、「うまく訳してあるなぁ」のように、読み手が、翻訳の良しあしを考えるのではなく、書いた文章の内容を考え、理解させるのが「上級の翻訳」なのです。

3.おわりに

 技術翻訳は、“「技術力」+「書く力(日本語能力)」”です。どちらが欠けても成立しません。前回も説明した通り、日ごろ書いている文章が、その人が書ける訳文の最高レベルです。自分の日常の日本語を越えた訳文は絶対に書けません。技術翻訳の能力を磨く王道は、日ごろ、日本語で文章を書く場合、「簡潔で分かりやすい日本語を書く」よう、常に心掛けることです。

 次回は、もう少し、技術翻訳に踏み込んで、具体的なお話をします。お楽しみに! (次回に続く)


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