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» 2013年11月25日 10時00分 UPDATE

小寺信良が見た革新製品の舞台裏(1):ソニーのレンズスタイルカメラはなぜ生まれたのか (1/3)

新たなアイデアで注目を集めたソニーの“レンズだけカメラ”。そのアイデアはどこから生まれ、そしてそれを形にするにはどんな苦労があったのだろうか。革新製品の生まれた舞台裏を小寺信良氏が伝える。

[小寺信良,MONOist]
ソニー

 今までにない新しい製品のアイデアや発想はどこから生まれてきたのか。またそのアイデアを形にしていくにはどういう苦労があるだろうか。今回開始した連載「小寺信良が見た革新製品の舞台裏」では、商品企画や設計・開発の担当者へのインタビューを通じ、革新製品の生まれた舞台裏に迫る。連載の第1回では、斬新なデザインが多くの人の度肝を抜いた“レンズだけカメラ”、サイバーショット「DSC-QX10/100」の舞台裏をレポートする。




衝撃を与えた“レンズだけカメラ”

 2013年10月25日に国内でも発売されたソニーのDSC-QX10/100は、液晶画面を持たない、“レンズ部分だけ”ともいえるルックスで、多くの人の度肝を抜いた。スマートフォン(スマホ)と合体し、モニターはWi-Fiで接続したスマホ画面を使うというそのコンセプトは、恐らく2013年に発売されたデジタルカメラ(デジカメ)において、"最も変わったカメラ"であることは間違いないだろう(関連記事:ソニーの“まるでレンズだけ”デジカメ、国内発売)。

ソニーのDSC-QX10ソニーのDSC-QX100 ソニーのDSC-QX10(左)とDSC-QX100(右)。レンズだけの外観は衝撃を与えた(出典:ソニー)(クリックで拡大)

 このような特異な製品は、コンセプトモデルとしてはあり得るだろうが、実際に商品として世の中に出るには、相当な葛藤があるはずだ。決して"ソニーだから"という理由だけで済むはずはない。

 今回はこの新提案カメラ、DSC-QX10/100の商品企画を担当した同社DI事業本部商品企画2部の玉川 準一朗氏、設計を担当した同社設計2部の兼子 夏海氏に、このカメラに至るまでの道のりをお伺いした。

ソニーの2人 「DSC-QX10/100」の企画を担当したソニー DI事業本部 商品企画2部の玉川 準一朗氏(右)、設計を担当した設計2部の兼子 夏海氏(左)

スマホで写真の楽しみを知った層へのアプローチ

小寺 まずこのようなカメラが生まれてきた背景から整理したいと思います。デジタルカメラ、特にコンパクトデジカメの高機能化と低価格化によって、写真人口全体としては大きく広がりました。

 しかし、もはや必要な人にカメラが行き渡り、もっと高機能を求める人はデジタル一眼レフやミラーレスカメラに移行していきました。一方で下からはスマートフォンがカメラ性能を上げてきている。そうなると、コンパクトデジカメは役目が終わってしまいます。そこにもっと積極的な意味がないと生き残れない、このカメラには、そういう“生き残り策”のような意味があるのではないかという気がしたんですが、いかがでしょうか。

玉川氏 “生き残り”というほどネガティブなものではありません。写真人口が増加しているのは事実だと思いますが、実はスマートフォンをきっかけとして、初めてカメラの楽しさを知ったという人口が多いのです。スマートフォンにより、写真を撮って人に見せるのがこんなに楽しいんだという写真の楽しみを知った人たちです。

 今回の製品は、そういった人たちに対して、スマホのカメラでは撮れないような部分を補ってあげるということがコンセプトです。ただ「その場で撮ってすぐにネットでシェアする」という導線は、今まで通りスマホのパターンを確保しますよというカメラとして出したのです。

 スマホに食われているところを取り返そうというよりは、今までのコンデジでは捉えきれなかった、新しく出てきたスマホユーザーに対してしっかりアプローチしていきましょうということが狙いですね。

“写真をシェア”から生まれたコンセプト

小寺 ソニーは以前から、写真のシェアには力を入れていました。2000年には早くも「イメージでつながろう」をキャッチフレーズに、イメージステーションというオンラインアルバムサービスを開始しています。当時から現在に至るまで、"写真はシェアするもの"という意識は、ソニーの中で強く共有されているのでしょうか。

PlayMemories Online PlayMemories OnlineのWebサイト。写真や動画をクラウド上で共有できる(クリックでサイトに移動)

玉川氏 現在は「PlayMemories Online」のようなサービスも充実させています。われわれはハードウェアの部隊ですが、ハードを作る上でもWi-Fiを搭載するというのは当たり前になってきていますし、ユーザーがいかに簡単に写真をシェアできるかという導線の部分は、非常にこだわりとして持っています。開発に当たっては、必ずそういった部分は考慮しています。

「小さい液晶で撮って誰が喜ぶのか」

小寺 カメラにWi-Fiを搭載するというのは、2012年頃からトレンド化してきました。このQX10は「DSC-WX200」、QX100のほうは「DSC-RX100M2」がベースになっているそうですが、カメラの母体はあって、それにもWi-Fiも積まれている。しかしそこから「モニターは取って、スマートフォンだけでいいや」と割り切るには、相当のエネルギーがいる話だと思うんですよ。社内でも相当もめたのではないでしょうか。

玉川 商品企画を担当した玉川 準一朗氏

玉川氏 その通りですね。実は以前から「レンズ形状のカメラとスマートフォンをくっつければ一眼っぽくなる」というアイデアは社内で持っていました。しかし、実際そういう商品を作った場合に「どんなお客さんが買って、どういう風に使うの? 」というところが、最初にもめたところです。

 カメラ単体で完結させるためには、この形に小さい液晶を付けたっていいはずですよね。カメラ単体で完結させて「形がユニークです」という商品を出すというのも、アイデアとしてはありました。でもそれだけであれば逆に「なんでそれをやる必要があるの? 」という問いに対する解が不明瞭になります。そもそものスマホのカメラ性能を補うというコンセプトがブレますし、そもそも、そんな小さい液晶を搭載して誰がうれしいのか、という話になりました。

スマートフォン接続 スマートフォンのカメラ性能を補うというコンセプト(出典:ソニー)

 やはりスマートフォンと接続することで、スマートフォンの大画面で美しい液晶表示を撮影画面として使ってもらう方がよっぽどインパクトがあるということに落ち着いたわけです。ですから、製品として今あるカメラから機能を削いでいったというよりは、むしろプリミティブなカメラのパーツだけまずイメージして「ユーザーに必要な機能は何と何」というのを選んでいった。そういう商品企画の方法を取りました。

 アクションカムなどは、ベースにビデオカメラ「ハンディカム」があって、そこからどの機能を落としていきましょうかという話の流れでしたが、レンズスタイルカメラはもう最低限撮れればいいという発想です。ですから、液晶は付いていません。しかし、シャッターとズームレバーは付けています

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