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» 2013年12月11日 10時00分 UPDATE

知財コンサルタントが教える業界事情(17):新市場をつかめ! 勝負を分ける3Dプリンタ特許〔後編〕日米欧企業の特許出願傾向は? (3/3)

[菅田正夫,MONOist]
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技術用語を用いた、日本特許の出願動向

 日本特許に対するCPC(Cooperative Patent Classification)の付与は、欧州特許(EP)や米国特許(USP)に比べ大幅に遅れている状況です。そこで、3Dプリンタに付与される頻度が高いと分かった、特許分類IPC(International Patent Classification)「B29C67:(特異な)成形技術」と、技術用語の積集合からなる検索式を試用しました。

 この際、技術用語は同義語と異表記の各視点から、表3のものを採用しました。

表3 表3:3Dプリンタに対応する技術用語の例(検索での試用例)(クリックで拡大)

 これらの技術用語による検索で得られた結果が以下です。図1には日本特許の出願年別の特許件数推移を、図2には出願人別累積特許件数を、それぞれ示しました。

図1 図1:3Dプリンタの日本公開系特許出願件数推移(クリックで拡大)

 図1から、日本公開系特許出願件数に変動幅はあるものの、1995年頃から定常的な特許出願件数となっていることが分かります。*)

*) 図1は2013年9月末時点での検索結果です。特許の出願から公開までが通常1.5年であることを考慮すれば、2011年までの特許出願件数に注目すべきです。今回試用した日本特許データベースのデータ収録は、公開/公表日が1986年1月1日以降の日本公開系特許であるため、特許の出願から公開までの1.5年を考慮し、1987年以降のデータを示しました。

 図1から、日本公開系特許出願件数推移は1995年までの「第1期」、1996年から2009年までの「第2期」、そして2010年以降の「第3期」に分けて考えられます。第1期は特許出願件数増加時期、第2期は件数の増減こそあるものの、定常的特許出願件数が保たれている時期。そして、第3期はFDM(Fused Deposition Modeling:溶融堆積成形)特許の権利期間満了に伴う、新規参入を含めた企業淘汰の時期になると考えられます。

日本の特許大企業はどう動いたか

 図2では、次のような企業に注目して、日本特許出願件数推移を示しました。

  • 日本への特許出願件数が多い企業5社に注目: パナソニック*)3D SystemsソニーEOSJSR**)
  • 企業沿革から判断して、まとめて注目すべき3社:帝人製機シーメットナブテスコ
  • 3Dプリンタ業界で、3D Systemsに対抗する企業:Stratasys
  • 新規参入企業として注目すべき企業:キーエンス
図2 主要企業における3Dプリンタの日本公開系特許(クリックで拡大)

*) パナソニック:出願人名が、パナソニック、パナソニック電工、松下電器産業、三洋電機である公開系日本特許数の総和、**) 日本特殊コーティング:JSRの関連会社であり、JSRとの共同出願件数の多い企業であるため、今回は表に加えた

 3D SystemsとStratasysの日本公開系特許の出願件数には、大きな違いがあります。これは両企業の日本市場に対する見解の差によるものだと考えられます。

 また、今回調べた中では韓国、中国企業の出願があまりないということが特徴的でした。世界市場戦略の観点から、韓国の材料企業は、日本に特許出願をしないという傾向が顕著になっています。そして韓国のサムスン電子とLGエレクトロニクスは“特許権の実効性が小さい”中国への特許出願件数を減少させています。

 中国企業は、日本企業が基本的な特許は外国出願しても、特許出願費用削減のため、周辺特許までは外国出願しない傾向にあることを把握し、「日本企業が外国特許出願しなかった周辺特許」を外国特許出願し、後日のクロスライセンスでの日本企業への支払い金額の低減を狙っています。

 企業では、「知的財産交渉までを考慮した知財戦略」が既に遂行されており、その1例がIBMです。そして、元IBMのMarshall Phelps氏(現IPXI、前Microsoft VP, IP Policy & Strategyで、元IBM VP, IP & Licensing)が2002〜2010年まで在籍したマイクロソフトも、IBMに学んだといえます(関連記事:恐るべきIBMの知財戦略、なぜ太陽電池に賭けるのか?)。


 今回まで3回に渡り、現在大きな盛り上がりを見せている3Dプリンタを知的財産の観点から取り上げてきましたが、いかがだったでしょうか。現在の市場の盛り上がりが、特許競争が落ち着き基本特許の権利期間満了によってもたらされている点、今後の3Dプリンタの発展が、食料や金属の他、プリンテッドエレクトロニクスとの融合へと進む点など、さまざまなものが見えてきたのではないでしょうか。

備考:分析仕様・条件

 本稿では、下記の分析条件で各社の動向を考察しました。特許データベースの使い方が分かれば、下記の条件検索パラメータを活用してご自身でも確認できます。

データベース

項目 内容
日本特許 CKSWeb(中央光学出版のご好意で試用しています)
外国特許 Espacenet(EPOの無料特許データベース)
CPA Global Discover(日本技術貿易のご好意で試用しています)

分析条件

項目 内容
日本特許 3Dプリンタ関連特許の検索
IPC*全文:(B29C67)*(3Dプリンタ+3Dプリンタ+3次元プリンタ+3次元プリンタ+三次元プリンタ)+(3D積層+3次元積層+3次元積層+三次元積層)+(積層造形+積層造型)+ラピッドプロトタイピング+(3次元物+3次元物+三次元物)+(立体造形+立体造型)+(立体形状物+立体型状物)+(光造形+光造型)+(3次元造形+3次元造形+3次元造型+3次元造型)+(三次元造形+三次元造型+3D造形+3D造形+3D造形+3D造型)。同義語/異標記に注目して「3Dプリンタ関連技術」の検索式探求を試みました。
外国特許 CPC(Cooperative Patent Classification)を用いた特許の検索
CPC:B29C/67、B29C67/00、B29C67/0051、・・・と順に入力して、各特許分類(CPC)に対応するグローバルの特許件数を知ることができます。CPA Global Discoverで検索方法を検討し、EspacenetでCPCを用いて特許検索しました。またUSPTOの無料特許データベースでは、米国特許を対象とするCPCを用いた特許検索が可能です。

筆者紹介

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菅田正夫(すがた まさお) 知財コンサルタント&アナリスト (元)キヤノン株式会社

sugata[at]seaple.icc.ne.jp

1949年、神奈川県生まれ。1976年東京工業大学大学院 理工学研究科 化学工学専攻修了(工学修士)。

1976年キヤノン株式会社中央研究所入社。上流系技術開発(a-Si系薄膜、a-Si-TFT-LCD、薄膜材料〔例:インクジェット用〕など)に従事後、技術企画部門(海外の技術開発動向調査など)をへて、知的財産法務本部 特許・技術動向分析室室長(部長職)など、技術開発戦略部門を歴任。技術開発成果については、国際学会/論文/特許出願〔日本、米国、欧州各国〕で公表。企業研究会セミナー、東京工業大学/大学院/社会人教育セミナー、東京理科大学大学院などにて講師を担当。2009年キヤノン株式会社を定年退職。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、「特許情報までも活用した企業活動の調査・分析」に取り組む。

本連載に関連する寄稿:

2005年『BRI会報 正月号 視点』

2010年「企業活動における知財マネージメントの重要性−クローズドとオープンの観点から−」『赤門マネジメント・レビュー』9(6) 405-435


おことわり

本稿の著作権は筆者に帰属いたします。引用・転載を希望される場合は編集部までお問い合わせください。



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