「作り方が分からない」「作れない」「売れない」を解決する手段MONOistミーティング冬レポート(1)(1/2 ページ)

メイカーズのビジネスについて考える「MONOistミーティング」の第2弾が開催された。今回は、クラウドファンディングや3Dプリントサービスなど、メイカーズのためのWebサービス関連がテーマとなったディスカッションを紹介する。

» 2014年01月08日 11時00分 公開
[杉本恭子,MONOist]

 2013年12月7日、御茶ノ水 ソラシティ カンファレンスセンターにメイカーズが集結した。同年6月に続いて2回目の開催となる、モノづくりビジネスについてディスカッションするミーティングだ。今回のテーマは、「MONOistミーティング:MAKERSのアイデアを具現化する! いますぐできる製品開発と3D設計」。いま世の中にはどんなサービスがあるのか、資金調達、量産、販売といったハードルはどうやって超えるのかなど、実現までのステップについて語り合った(関連記事:「メイカーズと町工場を熱意と3Dでつなげ 」)。

会場の様子

「作るプロ」と「共有して売るプロ」が語り合う

 最初のディスカッションは「MAKERSのためのWebサービス 個人や小企業がWebを通じてモノづくりができる時代に」。チームラボ カタリストDiv 高須正和氏がモデレータを務め、SOLIZE Products 取締役 佐藤武朗氏、プロトラブズ 社長 トーマス・パン氏、enmono 代表取締役 三木康司氏が登壇した。

チームラボ

チームラボ カタリストDiv 高須正和氏

 チームラボが開発する「チームラボハンガー」は、ハンガーに掛かった商品を手に取ると、ショップ内のディスプレーに、その商品がコーディネイトされた写真や動画、デザインのコンセプトや、素材の説明などの情報を表示させる、要はデジタルサイネージと連動したセンサー装備のハンガー。『New Value in Behavior』をコンセプトの1つとする同社の、代表的な製品だ。基板作成サービスや3D出力サービスを利用し、EMS工場で量産している。同社は3D出力サービスの「DMM 3Dプリント」にも携わっており(DMM.com、nomadと協業)、メイカーズと支援者、両方の立場を知っている。

SOLIZE Products

SOLIZE Products 取締役 佐藤武朗氏

 SOLIZE Productsは、SOLIZEのグループ会社でプロトタイプ事業を行う。1990年、SOLIZEの前身である旧インクス設立以来(注1)、3Dプリンタを使用して大手自動車メーカー、家電、医療などの試作を幅広く支援している、いわば3Dプリンタ事業における「老舗」。加えて現在は、工業向けのハイエンド3Dプリンタの販売、保守も行っている。同社は2010年には「インターカルチャー」というブランドを立ち上げ、企業だけでなく、個人やコンシューマのモノづくりにもサービスを提供すべく、3Dプリントのオンラインサービスを運営。工業製品の試作支援で得たノウハウを生かして、単なる3Dプリントだけではなく、データ作成から塗装までトータルにサポートしてくれる。インターカルチャーでは、同社が企画デザインした商品を販売している他、3Dプリントに関するさまざまな疑問に答えるなど、情報も発信している。

*注1:2013年にインクスからSOLIZEに社名変更。それに伴い同社グループ会社であるインクスエンジニアリングはSOLIZE Engineeringと社名変更し、さらにそこからプロトタイプ事業を分社化したのがSOLIZE Productsである。


プロトラブズ

プロトラブズ 社長 トーマス・パン氏

 プロトラブズは、米国Proto Labs, Inc.の100%出資で2009年に設立された日本法人。射出成形および切削加工による樹脂や金属パーツの試作と小ロット生産を行う。同社の特徴は、ITを駆使した短納期システムによる徹底した自動化だ。3次元データを解析し、見積もりや製造性の問題などを自動で指摘するソフトを持っているため、見積もりが出るまでたった3時間程度。詳細な検討まで面談は不要で全てインターネットと電話で完結する。同社のサービスを利用すると1〜2週間で、3次元データから最終製品の材料による小ロット生産が可能だ。

enmono

enmono 代表取締役 三木康司氏

 enmonoは、プロトラブズのサービスが重視する「面談不要」「自動化」に対して、「人間系」を重視するサービスを提供する。そもそも会社名の「エンモノ」は、「人の“ご縁”で“モノづくり”をする」という由来だ。ソーシャルネットワーク、クラウドファンディングを用いて、町工場自らがメーカーになる「マイクロモノづくり」を提唱している。同社では町工場の2代目、3代目が経営者として一本立ちできるようにと、教育ビジネスからスタート。そのなかで課題となる資金調達や販路を支援しようと、2013年5月から「zenmono(ゼンモノ)」というメイカーズのためのプラットフォームを立ち上げた。資金だけでなく、販路や事業アドバイスなどの支援も得られ、ECサイトで販売もできる。資金は調達できてもなかなか出荷にたどりつけないケースも少なくないことから、町工場とメイカーズを引き合わせるサービスも開始。町工場と一緒に作り上げていくことを提案している(関連連載:「マイクロモノづくり概論」)。

個人が製品を作れる時代になってきた

 ディスカッションの冒頭、高須氏は今まではメーカーしか製品を作れなかった理由として、「作り方が分からない」「作れない」「売れない」の3つを提示した。しかし現在は、外装・内装・電子回路などのさまざまなノウハウ、場合によってはアイデアそのものも、Web上で共有されている。また工作機械やプロセスを提供するシステムや、基板作成などのサービスもWebサービス経由で実現され、工作ルームがなくても作ることができる。さらに、クラウドファンディングで資金調達と宣伝が同時に行えたり、オンラインストアで販売したりすることも可能だ。高須氏は「製品開発部や宣伝部など、大手企業が持っていた機能も、インターネット上で個人が使えるようになっている。個人が製品を作れる時代になりつつある」と、メイカーズを取り巻く現状を説明した。

 現在のメイカーズの状況に関して、「環境は整いつつある。後はどう活用していくかで、ますます広がると思う」と佐藤氏。パン氏は「見積もりを出すこと自体に労力が掛かるので、売れるかどうか分からないモノに、企業は労力を掛けたくないもの。今後は自動化も進むのではないか」とコメント。三木氏は「全てが町工場でできるわけではないので、うまく使い分けていくといいのではないか」と述べた。

作り手の熱意+トータルなサポート

 では、今後メイカーズが増えていくには何がポイントになるのか。

佐藤氏

ビジネスという視点では、ハード側だけではなくソフトも含めた環境整備が必要になるだろうと思います。一方コンシューマーの目線では、便利な店や製品が多々ある中で、手間暇掛けて作る価値のあるモノがどれだけあるか、あるいは作り手側にどれだけ熱意があるかというところが、まだまだ不足している。今後のキーとなりそうな感じがします。


高須氏

現在販売にたどりついている製品、または大きなファンドを獲得した製品は、チームで作っていることが多いのでないでしょうか。アメリカの状況はどうでしょう?


パン氏

アメリカはこういうことが盛んな文化です。その理由の1つとして、ガレージがあることが大きいのではないかと思います。ガレージにいろいろなモノを持ち込んで、泊まり込みで作ることができる。日本の都心では難しいですよね。スペースがないことは大きな差なのではないかと思います。


高須氏

町工場の方々と出会うきっかけは、どういうところにありますか?


三木氏

非常に日本的なお付き合いも、貴重な出会いのきっかけとなります。例えば「全日本製造業コマ大戦」後の、町工場の社長たちが集まる飲み会に参加することでもネットワークを広げられます(関連記事:「僕らはどうしてコマ大戦をやるのか 」)。


高須氏

インターネットによって仕事の依頼方法は変わってきていますか?


佐藤氏

インターネット経由での依頼は、圧倒的に個人事業主が増えています。相談内容も、材料とか、データとか、どう仕上げればよいかなど、トータルなモノづくり支援の要望が増えていると思います。


高須氏

DMM 3Dでも、パーツ関係の問い合わせが増えて、“最終製品になる前のモノ”を作りたいという意識を感じますね。インターネット上で他の人が作った面白いモノを知る機会が増えたことも、自分も作りたいという思いを拡大させているのかもしれません。


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