演算性能の向上とともに高機能アナログを集積業界最高性能のリアルタイム制御マイコンが登場

» 2014年01月15日 10時00分 公開
[PR/MONOist]
PR

 モーターの駆動や電源の制御といった用途では、リアルタイム制御が不可欠だ。アプリケーションの状況に応じてモーターの回転数を即座に変更したり、負荷の動作状態に合わせて供給電圧を瞬時に調整したりする必要があるからだ。

 こうしたリアルタイム制御には、一般的なマイコンは向かない。それ専用のマイコンが必要になる。これまでテキサス・インスツルメンツ(TI)では、リアルタイム制御向けマイコン「C2000™ファミリ」を製品化してきた。具体的には、C28xコアを搭載した32ビット・マイコン「Piccolo™」「Delfino™」や、C28xコアとARM® Cortex M3コアを集積した32ビット・マイコン「Concerto™」などである。実際、こうしたマイコンは、モーター向けサーボ制御機器、太陽光発電システムのインバータ装置、AC/DCコンバータ(スイッチング電源)、電力線通信機器などに採用されている。

新しいプラットフォーム

 ところが最近になって、モーターやインバータを使う産業用電子機器業界では、技術トレンドに変化が生じ始めているという。「こうした業界では、エネルギー効率の向上や、よりきめ細かな制御の実現が必要になっており、リアルタイム制御向けマイコンの高性能化を求める声が高まっている」(TI)というのだ。

 さらに、炭化シリコン(SiC)や窒化ガリウム(GaN)といった次世代パワー・デバイスの実用化が与える影響も小さくない。次世代パワー・デバイスを使えば、パワー(電力変換)段の高周波化が可能になる。この結果、損失を抑えて放熱対策を緩和できるほか、インダクタなどを小さくできるようになり、パワー段の小型化が可能になる。ただし高周波化すれば、より高速に動作するリアルタイム制御向けマイコンが必要になる。

 産業用電子機器業界におけるマイコンの高性能化に対するニーズ。TIはこうしたニーズに応えるべく、新しいリアルタイム制御向け32ビット・マイコンを「C2000ファミリ」に追加した。「Delfino F2837xD」である。特長は、性能が極めて高い点にある。もちろん、演算処理性能を大幅に高めたのは言うまでもない。それに併せて、アナログ機能についても性能を大きく引き上げた。「これがC2000の新しいプラットフォームとなる。F2837xDがフラグシップ品となり、今後、これをベースとして新製品を投入していくことになる」(同社)という。

デュアル・コア構成を採用

 それでは、性能をどの程度まで高めたのか。演算処理機能とアナログ機能に分けてそれぞれ解説しよう(図1)。

 まずは演算処理機能について説明する。マイコン・コアは、Piccolo、DelfinoやConcertoでも採用しているC28xコアである。ただし、F2837xDではこれを2個搭載した。いわゆるデュアル・コア構成である。最大動作周波数は200MHzで、演算処理能力は200MIPSになる。同社によると「フラッシュ・メモリとともに集積したC28xコアでは、これまでの最大動作周波数は150MHzだった。F2837xDでは、これを200MHzに引き上げた」という。

図1 F2837xDの内部ブロック図 図1 F2837xDの内部ブロック図
2個のC28xコアのほか、コプロセッサとしてCLA(制御補償アクセラレータ)を2個集積した。いずれも動作周波数は200MHz。演算性能は合計で800MIPに達する。なお、C28xとCLAは、対応する命令数とアクセス可能な周辺機能に違いがある。CLAがアクセスできる周辺機能は、図中の濃い灰色のみ。薄い灰色の周辺機能にはアクセスできない。

 さらに今回は、制御補償アクセラレータ(CLA:control law accelerator)と呼ぶコプロセッサを2個搭載した。このコプロセッサは、リアルタイム制御に関する演算処理に特化したもの。C28xコアと比較すると実行可能な命令が限定されるものの、高速な制御に向く。CLAの最大動作周波数も200MHzで、演算処理能力は200MIPSである。従って、2個のC28xコアと2個のCLAを合わせると、演算処理能力は最大で800MIPSに達する。

 このほかにも、演算処理機能の性能向上に向けた工夫を盛り込んだ。1つは、C28xコアに三角関数演算ユニット(TMU:Trigonometric Math Unit)である。モーター制御やインバータ制御で利用するパーク変換などの処理を高速化できる。従来は、三角関数の処理に90サイクルが必要だったが、これを使えば13サイクルに短縮できる。

 もう1つは、新しいビタビ・複素数演算ユニット(VCU II:Viterbi Complex math Unit II)である。PiccoloやConcertoにもビタビ・複素数演算ユニットを搭載していたが、今回はアルゴリズムを見直して、処理サイクルのさらなる短縮化を図った。VCU IIを使えば、使わない場合に比べて処理速度を6〜10倍に高められるという。スマート・グリッドで使用する狭帯域電力線通信(PLC)仕様である「G3」、「Prime」、「IEEE-P1901.2」の処理や、モーターの故障予測に使う高速フーリエ変換(FFT)の処理で効果を発揮する。

2つのマイコン・コアを使い分ける

 F2837xD に搭載したC28xコアとCLA。この2種類のマイコン・コアは、それぞれが完全に独立して動作する。しかもCLAの動作を規定するソフトウェアは、CLAが世の中にリリースされた当初はアセンブラ言語で記述する必要があったが、現在ではC言語で記述できる。従って、使用できる命令数やアクセスできる周辺機能数は若干少ないものの、一般的なマイコン・コアとして使えるわけだ。

 つまり、2個のC28xコアと2個のCLAの合計で4個のマイコン・コアを、ユーザーは利用できることになる。これらは、どのように使い分けるのか(図2)。TIによると「C28xコアには、システム診断や通信などのバックグラウンド・タスクと、基準設定などの低帯域の制御。一方、CLAには、モーターや電源のフィードバック制御ループなどの非常に高帯域な処理を担当させる」という。つまり、リアルタイム制御が不可欠な高速な処理はCLAに任せ、それ以外の低速から中速の処理にC28xコアを使うという構成になる。

図2 C28xコアとCLAの使い分け 図2 C28xコアとCLAの使い分け
C28xコアは低速から中速の処理を、CLAはリアルタイム制御が不可欠な高速な処理を担当する。

 これは、既存の産業用電子機器における構成例とほぼ同じだ。つまり、低速から中速のホスト制御にはC2000ファミリなどのマイコン、高速な処理にはFPGAやASICなどを使う2チップ構成である(図3)。「こうした構成に慣れたユーザーであれば、F2837xDへの移行は比較的簡単である」(TI)。しかも、高速な処理が必要なFPGAやASICは投資も踏まえ、価格が高くなる傾向にあった。これが1チップで済むようになるため、「マイコンとFPGAやASICの組み合わせに比べれば、間違いなく低コスト化できる」(TI)という

図3 外付けのFPGAやASICが不要に 図3 外付けのFPGAやASICが不要に
C28xのほか、コプロセッサとしてCLAを集積したため、ホスト・マイコンにFPGAやASICを外付けする構成を採用する必要はない。このため、コストを削減できる。

16ビットADコンバータを4個集積

 次に、アナログ機能の性能向上について説明しよう。

 特筆すべき点は4つある。1つは、分解能が16ビットと高いADコンバータを4個集積したことである。最大サンプリング速度は、差動信号入力時に16ビット、1Mサンプル/秒、シングルエンド信号入力時に12ビット、4Mサンプル/秒である。同社従来の主製品では、最大サンプリング速度が4Mサンプル/秒の12ビットADコンバータは1個であり、入力部に2個のサンプル・ホールド(S/H) 回路を搭載した構成であった。

 今回新規に集積した4個の16ビットADコンバータにはそれぞれ、入力部に各1個のS/H回路を搭載している。さらに4個のADコンバータはそれぞれ独立に制御することが可能だ。このため、モーターや電源(インバータ)の制御において、4個のADコンバータを同期させることなく、非同期でデータを取り組むといった使い方ができる(図4)。

図4 16ビットADコンバータを4個集積 図4 16ビットADコンバータを4個集積
16ビットADコンバータを4個集積したため、太陽光発電向けインバータ(ソーラー・インバータ)において、インバータの3つの位相パラメータと、DC/DCコンバータの1つのパラメータを同時に監視できる。しかも、それぞれのパラメータは独立して取得できる。

 2つめは、ΣΔ(シグマ・デルタ)変調をかけられた信号を取り込み、それを復調するΔΣ型ADコンバータ・インターフェイスを搭載したことだ。これは、絶縁型ADコンバータの実現に向けたもの。ΣΔ変調器とデジタル・アイソレータを集積した「AMC1204」などを外付けすれば、絶縁型ADコンバータを構成できる。この構成を採用すれば、絶縁すべき信号ライン数はデータとクロックのデジタル線2本の構成に変更することができる。このため、絶縁アナログ入力本数を確保しつつも、コストを削減できる。

 3つめは、上限と下限の2つのしきい値を設定できるウインドウ型コンパレータを搭載したことだ。同社従来の主製品のコンパレータは、上限、もしくは下限のどちらか一方しか設定できなかった。しかも、「しきい値は、12ビット分解能のデジタル信号で設定可能だ。従来は10ビット分解能だったため、今回の方が設定精度を高められる。さらに、コンパレータの応答速度も高めた」という。

開発環境が完備

 F2837xDのパッケージは、実装面積が24mm×24mmの176ピンHLQFPと、16mm×16mmの337ピンNFBGAを用意した。1000個受注時の参考単価は18米ドルに設定している。

 F2837xDのソフトウェア開発を始めるには、同社が無償で提供している情報ナビ「controlSUITE」が便利だ。これを使えば、ソフトウェア開発環境「Code Composer Studio」と組み合わせて利用できるほか、プロジェクトや資料などのリソースも利用できるようになる。評価キットも用意している。モジュール型controlCARD「TMDXCNCD28377D」と、ドッキング・ステーション「TMDXDOCK28377D」である。前者の参考価格は159米ドル、後者が219米ドルである。

 冒頭で述べた通り、今回発売したF2837xDはフラグシップ(ハイエンド)品である。今後TIは、ミッド・ハイエンド品やミッド・レンジ品の市場投入を予定している。いずれもピン互換性とソフトウェア互換性を確保する考えだ。従って、産業用電子機器のハイエンド・モデルからローエンド・モデルまでを、今回の「Delfino F2837xシリーズ」で対応することが可能になる。

※C2000、Delfino、PiccoloおよびConcerto はTexas Instruments Incorporatedの商標です。その他、すべての商標および登録商標はそれぞれの所有者に帰属します。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2014年2月14日