中小製造業の生き残り戦略とインターネット――中村智彦教授、語る中小製造業の横連携イベントで見る今(1/2 ページ)

地域の中小製造業の横連携について研究する神戸国際大学経済学部の中村智彦教授が語った、日本の中小製造業の生き残り戦略とは。今大事なのは、インターネットを活用した、中小製造業自らの情報発信だ。

» 2014年01月31日 10時30分 公開
[小林由美,MONOist]
*本記事は、2013年7月に長野県上田市で開催されたSWCN(SolidWorks Club of Nagano)主催イベント「SWCN 5th Impact」にて、神戸国際大学経済学部 教授 中村智彦氏が登壇した基調講演の内容をベースに、その後の取材などで得た内容を含めて構成した。


 昨今、中小製造業による横連携プロジェクトが再び盛り上がりを見せている。そのような活動では、以前とは異なりインターネットを活用した自主的な情報発信やコミュニケーションが当たり前となっている。そのコミュニケーションは当然、インターネット内のみで閉ざされたものではなく、実際に顔を突き合わせてのコミュニケーションも大事だ。

 中小製造業のビジネスは相変わらず厳しい。それに上記のようなムーブメントの渦中にいる人たちは、業界全体からすれば、まだほんの一部。ただし、その「一部」が徐々に大きくなってきていることは実感できる。

神戸国際大学経済学部 教授 中村智彦氏:SWCN 5th Impact基調講演より

 神戸国際大学経済学部 教授 中村智彦氏は、日本の各地域における中小製造業の横連携について研究し続けてきた。同氏は「ここ4、5年の間で、中小製造業のネットワークは大きく変化した。(企業が)この中に入れるか入れないかで、5年後、10年後の経営が大きく変わってくるだろう」と話す。その変化の大きな要因の1つが、中小製造業におけるインターネットやSNSの進化/普及だろう。今後はより一層、中小製造業による自主的な情報発信やPRが大事となってくると中村氏は言う。

 しかしながら、そう中村氏が呼び掛けても、「うちは下請けですよ……。うちなんかの名前出してPRしたって仕方ないでしょう」という声もあがるそうだ。

もう大手企業は助けてくれない

 「かつて大手企業の子会社は、親会社から『よそに売りに行くな』と言われたものだが、ここ5、6年間で『どうぞ他に営業行ってください。つぶれられたら困るから……』と言われてしまう。(大手企業が子会社に仕事を与えるような)昔の体制は楽だった。営業しなくてよかったのだから。大手企業が仕事もくれたし、技術も教えてくれたし、必要な機械も貸してくれた。今は大手企業の力が弱くなり、そういったことがなくなってきた」(中村氏)。

 その潮目は今から10年ぐらい前である2000年初頭に、既に訪れていたという。バブル景気に見舞われていた1980〜1990年初めは、製造業GDP(国内製造業の生産額)は製造業売上高(大手企業の売上高)を上回っており、かつ両者の推移傾向は近似していた。要するに「大手企業ももうかっていたし、中小製造業ももうかっていた」(中村氏)ということだ。

 それが2000年に入ると、製造業GDPと製造業売上高の額の大きさが逆転。製造業売上高が急こう配で上がり続けているのに対し、製造業GDPは2008年のリーマンショックを境に大きく落ち込み続けている。つまり、生産が大幅に海外へシフトし、国内生産が顕著に減少していることを表している。

 今になって「政府が何も対策しない」「銀行が金を貸さない」と嘆くくらいなら、10年前に出ていた兆しを早くキャッチし、中小製造業が意識を変えるべきだったと中村氏は指摘する。今日まで生き残っている中小製造業の多くは、そういった時代の流れを予測し、「他に営業するなよ」と言われながらも、ひっそりと裏で、大手顧客に頼らないビジネスや技術を研究していた。俗に言う「裏研」である。

 「人件費が安い」「政府も勧めていた」といって、工場のアジア移転を安易に考えてはいけない。アジア進出を考えるなら、知識と戦略が必須だ。「あえて日本で作る強み」を再考する必要がある。中小製造業は今、自ら大手顧客に依存しないビジネスを模索し、自社の強みを具体的に把握し、自ら営業して顧客を開拓しなければならない。

 経営者としての勉強と情報収集はもちろん、中小製造業自らの情報発信も必要だ。それに日本の中だけではなく、世界に目を向ける必要がある。そのためには、インターネットの活用が肝心となる。

それでも情報発信は不要ですか?

 インターネットが普及した今、誰もが何でも、インターネット上で情報を探す時代になっている。中小製造業においても、自社のWebサイトを持つことは普通になってきた。それに顧客側もインターネットで情報を探している。未来の人材となる学生もまた、インターネットで就職情報を探している。自社のWebサイトは、きちんと作れば優秀な営業マンになってくれる。「今どき、イエローページで企業を探す人は少ない」(中村氏)。

 逆に、Webサイトの作りがあまりに適当、あるいは持ってすらない場合は、企業の印象や信用にも左右する。「見掛けではなく、大事なのはあくまで企業自身や持っている技術」であったとしても、非常に多くのチャンスを喪失していることは確かだ。「『自分たちはB to Bだから情報発信なんかしなくてもよい』なんて言っていたら、人材も採用できない。そういう時代になってきている」(中村氏)。

 「インターネットを使うのは、若い社長だけ」と思い込んでいる人はいないだろうか? 確かに、総務省の調査でも、若者と高齢者との間で利用率の格差は存在するとされているが、65歳以上のインターネット利用は増加傾向であるとしている。平成24年の調査結果では、65〜69歳の利用率は約6割、70〜79歳の利用率は5割弱ほどとなっている。「高齢者はインターネットを使わない」と考えていた人にとっては、案外大きく見える数字ではないだろうか。ちなみに50〜59歳に至っては8割以上だ。

 「インターネットを使うのは、若い社長だけ」「B to Bだから情報発信は不要」といった、“自分にとっての”常識、思い込みは捨てるべきだと中村氏は述べた。

自社Webサイトに、英語のページを!

 中小製造業の顧客は国内だけにいるわけではない。中村氏が勧めるのが、「自社のWebサイトに、英語のWebページを1ページでもいいから作ること」。経営者自身が英語が苦手でも、社内や社外に得意な人が1人ぐらいはいるもの。そうした人に頼めばよい。

 「海外の人たちは、インターネットで日本の中小製造業の情報を探している。それなのに、『存在しないことになってしまう』のは損だ」(中村氏)。ただ、中小製造業には「悲観論者が多い」という。「本当に海外から注文が来てしまったらどうすればよいのか……」とまで言う人も。

 本当に情報が探されているのだとしても、果たして本当に売れるのか?

 中村氏は、2012年11月にタイのバンコクで開催された国際展示会「タイ・メタレックス2012」を訪問したときのことを例に出した。日本国内の展示会は、もはや「年に1度の消息確認の場」となってしまっている。購入を検討している来場者は実際少なく、なかなか商談につながらない。そうした現状にうんざりしていた中村氏だが、「タイの展示会は面白いから、一度行った方がよい」と知人から勧められたという。

 タイ・メタレックス 2012には、日本から中小製造業が何社か出展していた。しかも、そのブースは大人気で、部品の加工図面の持ち込みがひっきりなしで、日本人から見ても高価な機械が次々と売れていくのを目の当たりにしたという。一方、日本よりはるかに安価な機械を売っている中国のブースに人気はなく、説明員は暇を持て余していた。

 タイは現在、ちょうど日本の1970〜80年代くらいの景気だという。物価も所得水準も右肩上がりで急成長している最中である。つい数年前までは、タイ現地の人が寄り付いてこなかったというバンコクのスターバックスや無印良品は、いまや現地の若い学生やカップルでにぎわっているという。数年前の知識や認識は既に役に立たなくなっているのだ。

 「1970〜80年当時の日本の中小製造業は、欧州製の高価な機械を思い切って買っていたもの。安くて時代遅れな機械では仕事にならない、あるいは仕事が受注できなかったからだ。現在のタイは、まさにそのような状況。だまされたと思って、一度タイの展示会に行ってみてほしい」(中村氏)。

中小製造業の若手経営者たちのドイツ行脚

 中村氏は、日頃交流している中小製造業の若手経営者たちがグループを組んでヨーロッパへ営業に行った時の話を取り上げた。

 彼らは、現地の経営者たちと意見を交換する中で「日本でモノを作ること」の意義を漠然と考えていたことに気付かされたとともに、海外の企業が日本のモノづくり技術の情報を探しているのにもかかわらず、「日本の中小製造業は、自分からなかなか売り込みにいかない」という現状も目の当たりにすることになった。

 その後、彼らは「インデックスライツ」というメディアを立ち上げ、中小製造業PRや海外進出支援を開始。中核メンバーは、本業の傍らでメディア運営や営業に携わっている。また中核メンバーの拠点は全国各地に散らばっており、その交流でFacebookが有効に利用されている(関連記事:「中小製造業の現役経営者だらけで運営する新メディア――あえて欧米で、紙雑誌」)。

インデックスライツの運営メンバー:ドイツでの悔しい経験をバネに
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