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» 2014年02月06日 10時30分 UPDATE

マイクロモノづくり概論(6):マイクロモノづくりにおけるクラウドファンディング活用法(後編) (1/3)

モノづくり系(ハードウェア系)のプロジェクトでは、クラウドファンディングで資金調達に成功しても、うまくいかないこともある。本記事では、クラウドファンディングにおける目標金額設定と、対価(インセンティブ)設定について説明する。

[三木康司/enmono,MONOist]

 前編では、クラウドファンディングを利用するにあたっての注意点やアドバイスを紹介した。後編である今回は、メイカーズ(個人や小規模事業)が自分が企画し、プロトタイプを制作した製品に対して資金を調達しようとした場合の注意点に関して取り上げる。

「開発資金があればモノづくりができる」という妄想

さて、メイカーズや中小製造業がオリジナル製品を開発し、事業とする場合に必須なリソースが以下の3つだ。

  1. 開発資金
  2. 共同で製造に携わってもらえる工場の発掘
  3. 販路

 一般に、クラウドファンディングは1の開発資金を集めるための道具として捉えられることが多い。しかし、開発資金さえあれば、マイクロモノづくりをスタートすることができるのであろうか?

 クラウドファンディングが先行している米国において、クラウドファンディングサイトで、資金は集まったものの最後まで遂行できなかったプロジェクトが過半数であるようだ。また、「indiegogo」や「kickstarter」で過去に成立したモノづくり系(ハードウェア系)プロジェクトのデフォルトについても話題となっている(下記、Webサイトを参照)。


 実際、当社でも「クラウドファンディングサイトで資金調達したのはよいが、国内工場で見積もりしたところ、予想以上に金型費用が大きく、赤字になってしまった。国内かつ小ロット生産に対応してくれる町工場を紹介してほしい」といった相談を受けたことがある。

 モノづくり系のクラウドファンディングのプロジェクトで、何がプロジェクトの阻害要因になるのか。大きく考えられる要素は以下だろう。

  1. プロジェクトコストの見積もりミス
  2. 「プロトタイプ」と「量産」の違いの理解不足
  3. 製造先が見つからない
  4. 製造先との信頼関係の構築が下手

 実は上記1〜3は非常に密接な関係にあり、主にメイカーズが陥りやすい間違いである。このようなトラブルは、プロジェクト初期段階から信頼の置ける製造先(町工場)との面談を重ねることで、技術的な課題や見積もりミスを回避できる。「本気でモノづくりを目指す」のであれば、さまざまなネットワークを通じて町工場と仲良くなり、信頼関係を構築することが必須だろう。

 上記の3点全てを取り扱いたいところだが、今回は1の「クラウドファンディングにおけるプロジェクトコストの見積もりの考え方」を中心に説明し、他は割愛する。

 クラウドファンディングにおいて、モノづくりのプロジェクト全体の原価計算は必須である。中小企業やメーカーであれば、この部分は本来の業務であるから、モノづくりにおける見積もりミスは少ない。

 しかし委託加工(下請け)を主業務としている中小企業が、最終製品を開発する場合は、「デザイン費」「パッケージ費用」「発送費」「広告費」など、これまでの仕事では想像もできなかった費用が発生するという知識がない。よってプロジェクト全体のコストを見積もる際に、思わぬ「ヌケ」・「モレ」が発生してしまうこともある。

 モノづくりのプロでも、このモノづくりにおける見積もり作業と、その後に続く「修羅場」的な品質問題は幾度ものトラブルを乗り越えて熟達する分野である。従って、モノづくりの素人が多いメイカーズは、この部分を1回で無難にクリアできるというのはかなり難しい。しかし、予備知識があるのとないのではハードルの超え方が全く異なってくるので、この記事を参考にして自らのプロジェクトの原価計算をしっかりやってほしい。

クラウドファンディング活用における原価計算の方法

 モノづくり系クラウドファンディングにおける原価計算は、基本的に製造業の原価計算とほぼ同じである。原価計算は、初期費用である「イニシャル」費用と、量産時のコストである「ランニング」コストに分類して算出するべきである。

 コスト計算はまず、製品開発の初期に掛かるコストを計算する。それを「イニシャルフィー」という。設計に掛かるコスト、製造設備に掛かるコスト、ソフトウェア費用などさまざまなコストを算出する必要があるが、それらを全て積み上げる必要がある。そこで、以下の原価計算シートを見ていただこう。

yk_enmonomicro06_01.jpg 原価シート

 縦軸には、それぞれ、イニシャルコストとランニングコスト、さらにクラウドファンディングが成功して自社商品になった場合の販売コストという大項目が明記してある。

 さらに横軸には、主に設計段階である「企画・構想」、そして次の設計にフィードバックさせるための試作「設計試作」、機能的な部分を確認するための「生産試作」、さらにプロトタイプを展示会などで「テスト的展示」、もしくは販売をしてユーザーからのフィードバックを受ける「テスト販売」、さらに生産工程を確認するための試作「量産試作」、実際に「量産」するステージ、最後に「販売」のステージとなる。

 製品の性質や複雑さによってはここまで細かく分類する必要はないが、メーカーのモノづくりは、これらの工程と原価計算を踏んで行われる。マイクロモノづくりにおいては、これらのステップを全て行うことはないかもしれないが、一応それぞれのステージを分類分けしておく必要がある。

 まずは埋められる範囲でこのようなエクセルシートに数字をいれて、ざっくりと事業全体に掛かるコストを見積もるべきである。

 この原価計算シートを用いてきちんと原価を見積もり、全体を俯瞰(ふかん)しておけば、「クラウドファンディングで資金調達できたが、集まった費用だけではプロジェクトが遂行できない」といった事態に陥ることを避けられる。

モノづくりクラウドファンディングの体験は、ほぼ起業?

 モノづくりを体験したことがないメイカーズにとって、このシートを埋めるのはハードルが高く、「まるで1つの会社を立ち上げる事業計画ではないか?」と躊躇(ちゅうちょ)される方がいる。そう、クラウドファンディングで資金を調達して、モノづくりをして、対価であるプロダクトをパトロンに最後まで届けること自体が、小さなメーカーを立ち上げ、売り上げと出荷を行うレベルのマネジメント能力が必要なのである。まさに“プチ起業”といえそうなレベルなのだ。

 実際、われわれがサポートしてきた中小企業経営者も、クラウドファンディングを体験することで、経営者として著しくレベルアップした。経営者によっては、クラウドファンディングを行うことで、自社の持っている強みを徹底的に考え直し、再び経営理念生み出し、名刺に印刷した方もあるほどである。クラウドファンディングの体験は、徹底的に自社や自らの強みと向き合い、それをどう表現するのか、ということを徹底的に考えることにつながる。

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