NECは、どうやって「在庫が山積みなのに売り場は欠品」状態から脱却したのかメイドインジャパンの現場力(2)(1/3 ページ)

「なぜこんなに在庫が残っているのに欠品が起こるのか」。NECでは1990年代まで、需給ギャップに円滑に対応できず、サプライチェーンの各所で在庫の山が発生していた。その状況から脱却できたのは2000年から取り組みを本格化させた生産革新の成果だ。その革新の最前線でもあるNECインフロンティア東北を訪ねた。

» 2014年02月21日 10時00分 公開
[三島一孝MONOist]
nectohoku

 「国内市場の縮小」「生産による差別化要素の減少」「国内コストの高止まり」などから、日本の生産拠点は厳しい環境に置かれている。しかし、日本のモノづくり力はいまだに世界で高く評価を受け続けており“国内生産による差別化”を強みとする生産拠点も数多く存在する。

 日本ならではの強みを発揮する製造現場を取り上げる「メイドインジャパンの現場力」の第2回となる今回は、同社が取り組む「ものづくり共創プログラム」のモデルケースにもなっているNECインフロンティア東北を取り上げる(関連記事:モノづくりを丸ごとサポート!――NEC、「ものづくり共創プログラム」を出展)。




NECが提供するノウハウは自身が苦しんだ歴史

 NECでは、製造業として積み重ねてきたノウハウと、同社が提供しているITシステムなどを組み合わせて顧客に提供する「ものづくり共創プログラム」を2012年から開始している。モノづくりのプロセス改革やITシステムの導入、コンサルテーション、モノづくりのノウハウ提供まで、モノづくりに関連する全ての領域をカバーし一貫してサポートする取り組みだ。実は、その製造業としてのノウハウの根幹になっているのが同社の生産革新活動の成果だ。

 今でこそノウハウを体系化し、製造業としての包括的なソリューションを提供できるようになったが、そのノウハウはNEC自身が苦しんだ末に体得した、生産性向上の歴史だという。

 同社では1960年代から品質管理を中心とする生産革新活動などに取り組んできた。デミング賞(1951年に創設された総合的品質管理に関する賞)などを受賞したこともあったという。またロボットや製造機械の活用による「工場の自動化」にも早期から取り組み、実績を上げていた。

 しかし1990年代に入りオイルショックや円高が起こる。その頃、NECには国内に多数の製造拠点があったが、EMS(電子機器受託生産サービス)企業などが台頭してきた時代でもあり「国内拠点として生き残っていけるのか。国内拠点の意味とは何か、を考えさせられた」とNECインフロンティア 支配人の渡邉祐子氏は語る。

在庫があるのに欠品が発生する状態

 市場環境が大きく変化する中で、生産現場そのものもさまざまな問題を抱えていた。NECでは1990年代初頭まで計画型(押し込み型)生産を行っていた。これは計画した通りに製品を生産し、生産されたものを営業が売るというモノづくりスタイルだ。しかし、市場変化のスピードが速くなる中で「計画通り生産している間にその製品のニーズはなくなり、別の製品のニーズが高まる」といった状況が発生する。見込みとのズレにより、工場のラインや倉庫に売れない在庫は増えるが、売り場では顧客が欲しい製品は欠品しているという状況が生まれるようになっていたという。

 これらの状況を解消するために1993年から生産革新活動を開始することを決めた。トヨタ生産方式を導入し、プル型(後補充生産型)生産を目指した。まずは基礎教育から開始し、1997年には現場でも導入を開始した。さらに2000年からは「統合SCM」として物流網を含めて全体をつなぐSCM生産革新活動を展開するなど、地道にPDCAサイクルを回しながら、生産効率の向上に取り組んできた。

 1990年代は主に工場ごとの生産革新の取り組みだったが、2000年代以降はビジネスユニットという軸で顧客までサプライチェーンをつないでいく取り組みを進める。フロントローディング※)などの他「改善し続ける組織作り」などに積極的に取り組んできたという。さらに2010年以降はこの考えをさらに広げ、ビジネスユニットをまたがる技術融合領域にアプローチできるようにするため、開発、生産体制を自由に組み合わせられるような体制作りを進めているという。

※)後工程で発生しそうな負荷を初期工程で組み込んで処理する手法のこと。NECではさらに踏み込み「後工程で関わる全部門が、開発の初期段階から計画的に参画して、原価・品質を作りこんでいくこと」の意味で用いているという。

 渡邉氏は「工場単体の生産性を上げても、事業全体を伸ばさないと意味がない。事業成長を行うにはさまざまな手法があるが、新たな成長領域として、今までのビジネスユニットをまたがる技術融合領域に多くの芽があるということに気付いた。そこで『One NEC』を掲げ、これらの技術融合領域にアプローチしやすい体制構築を今進めているところだ」と話す。

 既に、CAD、PLM、部品発注、生産管理、グローバルシステムを一本化して統合し、新たなグローバルSCM体制を構築する方針を発表(関連記事:NEC、自社のグローバル生産管理システムを刷新――2016年3月期までに全社導入を目指す)。ITプラットフォーム事業および蓄電システム事業においては2013年5月から新システムが稼働開始しており、2016年3月期までに全社の生産管理システムの刷新を進めていくという。

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