いまさら聞けない産業用ロボット入門〔前編〕産業用機器 基礎解説(1/4 ページ)

日本は「ロボット大国」とも呼ばれていますが、その根幹を支えているのが「産業用ロボット」です。それは世界の産業用ロボット市場で圧倒的に日本企業がシェアを握っているからです。では、この産業用ロボットについてあなたはどれくらい知っていますか? 今やあらゆるモノの製造に欠かせない産業用ロボットの本質と基礎を解説します。

» 2014年03月10日 10時00分 公開
[小平 紀生/日本ロボット学会 会長/三菱電機,MONOist]

 「ロボット」は非常に魅力的なイメージを与える言葉ですが、人によってイメージはさまざまだと思います。ロボットというと二足歩行の人間型ロボットを思い浮かべるかもしれませんが、現在活躍する「ロボット」の大半は「産業用ロボット」と呼ばれる、製造現場や建築現場で使われるロボットです。現在世界中に推定120万台の産業用ロボットが活躍しており、毎年16万台の産業用ロボットが生産されていることをご存じでしょうか? 現在社会で活躍している「産業用ロボット」とはどのようなものなのでしょうか?

 本稿では、身近に関わりがあるにもかかわらず意外なほど知らない産業用ロボットの基礎を解説します。〔前編〕では、産業用ロボットはどういうもので、どういう歴史があるのかという点について、〔後編〕では最新技術と将来像について、紹介します。




産業用ロボットとは?

 「産業用ロボット」とは一体何を指しているのでしょうか。図1にロボットの分類例を示します。

図1:ロボットの分類例 図1:ロボットの分類例(クリックで拡大)

 産業用ロボットの代表は製造業の工場で使われる製造業用ロボットです。製造業以外で使われる産業用ロボットとしては、農林水産業や建設現場などで使われるロボット、オフィスなど社会活動空間で使われるロボット、発電所など公共の現場で使われるいわば社会基盤用ロボットがあります。

 非産業用ロボットの代表例は、家庭で使用される家庭用・エンターテイメント用ロボットです。社会基盤用ロボットなど製造業用以外のロボットを全て非産業用とすることもあり、特に明確な定義があるわけではありません。現在、実社会で活用されているのは、圧倒的に製造業用のロボットです。

 その他の用途については残念ながらまだ市場はごくわずかで、概念にも曖昧なところがあるため、ここでいう「産業用ロボット」は「製造業用ロボット」のことを言っているものだと解釈してください。

日本のロボット産業の市場規模は?

 日本ロボット工業会(JARA)のロボット産業需給動向2012(2013年8月発行)から2012年のロボットの出荷先別台数実績を見てみましょう(図2)。この統計は、JARAが日本のロボット事業者から製品としてのロボットの受注、製造、出荷実績を集計し毎年発表しているものです。

図2:2012年ロボットの出荷実績 図2:2012年ロボットの出荷実績(クリックで拡大)

 JARAの統計値には広義のロボットが含まれています。「マニピュレータ」は2自由度以下の機構やプログラマブルではない固定動作機構のことで、ロボットというよりは簡単な駆動機械です。「その他ロボット」は電子部品実装機、ボンディング装置といったプログラマブルな特定専用機械です。3自由度以上のプログラマブルなロボットは「マニピュレーティングロボット」として集計されており、この欄が産業用ロボットの出荷実績となります。

 年間出荷がほぼ10万台で、輸出比率72%、というのが今の日本ロボット産業の実力です。出荷金額としてはおよそ3000億円です。ちなみに、この金額規模は、自動車の19.6兆円や清涼飲料水の2.3兆円と比べるとごく小さいですが、エレベータ・エスカレータの4200億円、自転車の3300億円と同レベルで、ごく一般的な工業機械の市場規模といえます。

 日本国内に向けて出荷されているロボットおよそ3万台のうち、自動車、電子電気機械向けが65%を占めています。やはり、製造業の中でも自動化が進んだこの2業種がロボット産業のけん引役です。

 全体的に輸出比率が非常に高い点が目に付くと思います。これは最近の生産財製品市場の特徴で、ここに今の日本の製造業の抱える課題があるのですが、この点は後に触れていきます。

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