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» 2014年04月09日 11時00分 UPDATE

MONOistゼミ 2014 レポート:タイヤは車体よりも先に最適化設計を採用――ブリヂストン事例など (1/3)

MONOist主催 CAEカレッジ「事例から学ぶ! 設計者CAEの最前線」では、工学院大学 中島幸雄教授がブリヂストンにおけるタイヤの最適化設計事例について、サイバネットシステムの古市洋也氏が流体解析ツールと最適化ツールを使った小型軸流ファンの形状の最適化事例について紹介した。

[加藤まどみ,MONOist]

 2014年2月26日、MONOist主催のCAEカレッジ「事例から学ぶ! 設計者CAEの最前線」が開催された。同セミナーではタイヤメーカーでいち早く最適化問題に取り組んできた工学院大学 グローバルエンジニアリング学部 機械創造工学科 教授 中島幸雄氏と最適化ツールを提供するサイバネットシステム(以下、サイバネット) システムCAE事業部 PIDO部 技術グループ 古市洋也氏が講演した。さまざまな分野で活用が進む最適化問題の取り組み方について解説するとともに、具体的な事例も豊富に紹介された。ここではその中から一部を紹介する。

タイヤの最適化設計事情

 工学院大学の中島教授は自動車のタイヤの最適化について紹介した。中島氏はブリヂストンで約40年も前からタイヤのシミュレーションに取り組んできたという。

yk_monosemi2014_1_n.jpg 工学院大学 グローバルエンジニアリング学部 機械創造工学科 教授 中島幸雄氏

 自動車本体よりも、タイヤの解析および最適化計算の取り組みはずっと早かった。それは比較的タイヤが有限要素法(FEM)を活用しやすかったのと、タイヤの構造体が複雑なため、手計算では間に合わず解析に頼らざるを得なかったからだという。タイヤへのFEMの活用は、1956年のボーイングによるものが最初だったという。1960年代にはFEMの教科書が出版され、中島氏らはこの本で勉強しながら、1970年代には内製ソフトでタイヤの解析を始めたそうだ。当時は最適化の市販ツールはなく全て自作だったという。それぞれの設計要素と相性の良い最適化手法の選択も自分たちの判断だった。最適化手法には1990年代に取り組んだ(図1)。

yk_monosemi2014_1_01.jpg 図1 タイヤ設計への最適化の適用

 タイヤは最適化手法の塊である。当時は一般消費者向け製品の中で最も最適化技術が使われていたのがタイヤだったという。

2つの理論を合わせ込み

 最初に手掛けたのは、タイヤのサイド部分の形状の最適化だ(図2)。

yk_monosemi2014_1_02.jpg 図2 最適化手法によって設計されている設計要素

 タイヤの形状は従来は「自然平衡形状理論」と呼ばれる式をベースにして設計されてきた。これに対し、「自然平衡の状態からずれてもよいのではないか」という考えから生まれたのが、「非自然平衡形状」というアイデアだ。これによりタイヤの繊維に掛かる張力を大きく変化させられ、大幅なタイヤ性能の向上に成功した。中島氏らは、従来のこの2つの考えを1つの理論で統一できれば、新技術が見いだされるのではないかと考えたという。

 はじめは手計算で始めたが限界があったため、結果的に最適化問題に取り組むことになったそうだ。つまり目的関数を張力として形状に関する設計変数を定め、制約条件を用意し、ベルト部とビード部における張力のコントロールを目標とした多目的最適化を行った。

思いもよらない形状が算出

 計算の結果、図3のように波打った、いわゆる「美しくない」形状が出てきたそうだ。

yk_monosemi2014_1_03.jpg 図3 形状の統一理論

 それまで60年近くの間、タイヤは外側に凸なのが当たり前だった。そのため、この結果を見た当初はとても違和感を覚えたという。だが計算上は目的箇所の張力は上がっており、非自然平衡形状よりも張力コントロールがなされていた。そこで設計部に提案しに行ったが、最初は取り合ってもらえなかったとのことだ。

 CAE技術部では、自分たち自身で解析結果の妥当性を示すため、金型設計から取り組んでタイヤを作った。実際に作ったタイヤで走行テストをしてみたところ、明らかに誰でも分かるレベルでハンドリング性能がよくなったという。だが残念ながら、この設計が受け入れられたのは数年後だったそうだ。そのきっかけは、社長が新しい技術の提案を求めたからだという。ともあれ一度設計部の信頼が得られると、その後は提案などもすんなり認められるようになったということだ。

 「当時は『良いものができたのになぜ採用されないのか』と憤っていましたが、車はクレームのリスクがあり、変更するためにはものすごい数の実験と検証が必要です。スムーズにいかない方が当たり前だったのでしょう。(最適化設計など新しい手法は)一度採用されると壁は低くなるので、地道に設計部門を説得していく以外にないのでは」と述べた。

 形状の最適化の次は、徐々に細かいスケールである構造、パターンへと最適化の適用範囲を広げていった。1990年代末にはできる範囲での最適化は終わり、連成解析へと移行していったという。

人では解けない課題に最適化を使う

 最適化を実施することによって、ベテランでも思い付かないような新しいアイデアが出ることもある。中島氏の考えでは、単に設計精度を上げるためでなく「人にはできないことをコンピュータにさせる」というスタンスが大事だという。言い換えれば、最適化を使わなければ解けない問題に採用するということだ。最適化を適用すべき分野はどこにでもあるのではないかと言い、どこにどう使えるか気付くのは、一人一人のセンスによるようだ。「センスを磨くために一番よいのは、設計を経験することでしょう」(中島氏)。

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