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» 2014年05月23日 07時30分 UPDATE

新しい治療法が実現する可能性も:“中距離無線”で給電、米粒サイズのインプラントが治療を変える?

米大学が、長さ2mmの体内埋め込み型(インプラント)の神経刺激装置に無線給電する方法を開発した。1.6GHzの電波に変調を加えることで、従来の近距離無線通信では届かなかった体内の深部まで、送電波を届けることに成功したという。インプラントと給電デバイスの両方を小型化できる可能性があり、慢性病などに効果を発揮する新しい治療方法が生まれるかもしれない。

[Rick Merritt,EE Times]

 米スタンフォード大学の准教授Ada Poon氏は、安全コンプライアンス部からの報告書を読んだ日のことを今でも覚えている。同氏は、長さがわずか数mmの埋め込み型医療機器(以下、インプラント)の研究開発を6年にわたり手掛けてきた。そのインプラントの安全性が認可され、実用化される見込みが出てきたのだ。

 Poon氏は「本当に興奮した」と話す。同氏は、生きている動物の組織を媒体として、200μWの電力を5cm以上の距離で伝送することに成功している。

mm140522_stanford1.jpg 米スタンフォード大学の准教授Ada Poon氏

 Poon氏は「シミュレーションの段階で、安全だということは分かっていた」と述べている。「われわれは、出力電力を500mWまで上げて維持することに成功している。これは携帯電話機と同じくらいの消費電力だ。同時に温度上昇についても確認し、検証を重ねて、最終的に同技術は安全だと結論付けた。そこで、第三者機関に評価を依頼することにした」(同氏)。

 Poon氏らは2014年5月19日(米国時間)、研究結果をまとめた論文を「National Academy of Science」に提出した。論文では、ウサギの心臓に長さ2mmのマイクロスティミュレータ(組織を刺激するための皮下挿入器具)を埋め込み、組織を5cm通過して電力を供給する方法を説明している。

“中距離”無線で給電

 インプラントを無線で給電できれば、電池が不要になるので小型化に大きく貢献する。無線給電方式の1つである電磁誘導(磁気誘導)方式は、コイルとコイルをできるだけ近づけて給電する(関連技術:“どこでも充電”を実現するワイヤレス充電技術とは?)。だが、この方式は送電波がすぐに減衰してしまうので、インプラントに十分な電力を供給するには送電部に大きなコイルが必要になる。Poon氏のチームは、1.6GHzの電波に変調を加え、体内の深部まで送電波を届けることに成功した。同チームは、近距離(near-field)と遠距離(far-field)の間を取って「ミッドフィールド(mid-field:中距離)無線」と呼んでいる。

 研究チームは、6cm角の薄型の給電デバイスを使用して、長さ2mmのインプラントに効率的に給電することに成功した。

mm140522_stanford0.jpg スタンフォード大学が開発した、長さ2mmのインプラント
mm140522_stanford2.jpg 体内の深部まで十分に送電波を届ける「ミッドフィールド(mid-field)無線」(クリックで拡大) 出典:スタンフォード大学

 Poon氏らは、今回の技術によって米粒サイズのマイクロスティミュレータが実現すると予想している。既存のインプラントや薬剤よりも、慢性病の治療により効果を発揮する方法が誕生する可能性も高い。インプラントを充電するときは、クレジットカード大の給電デバイスを、インプラントが埋め込まれているエリアにかざせばいい。

mm140522_stanford3.jpg 開発したインプラントは、コイル、コンデンサ、電極などで構成されている
mm140522_stanford4.jpg ミッドフィールド無線を搭載したインプラントのイメージ図。完成形は、このようなカプセル型になるのだろうか(クリックで拡大) 出典:スタンフォード大学

 スタンフォード大学の大学院生で、論文の共著者であるJohn Ho氏は、「われわれが開発したミッドフィールド無線は、現在開発中のデバイスも含め、幅広いデバイスに適用できると考えている。例えば、埋め込み型の診断センサーや、ドラッグデリバリーシステム*)などだ」と述べる。「現在、こうした技術が実用化されていないのは、既存のインプラントが大き過ぎるからだ」(Ho氏)。

*)ドラッグデリバリーシステム(DDS:Drug Delivery System):患部(臓器や組織、細胞、病原体など)に、薬物を効果的かつ集中的に送り込む技術を指す。

 Ho氏は、「面白い用途例として、薬の代わりに電気刺激を与えるデバイス(electroceutical)が挙げられる。神経を直接調節するこのような小型デバイスは、薬よりも効果的な治療を提供できる可能性がある。電気的な治療薬を開発するには、病気を神経のレベルから理解することが重要なので、それにはまだ多くの研究が必要だ。ただし、こうしたアプローチは、安全な電力供給を不可欠なので、ミッドフィールド無線が果たせる役割は大きいはずだ」と語った。

臨床試験を目指して

 Poon氏らは、今後1年以内に、ミッドフィールド無線を採用したマイクロスティミュレータの臨床試験の開始を目指すとしている。まずは痛み緩和用のインプラントとして、末梢(まっしょう)神経に埋め込まれる可能性が高い。

 今後は、送信電力と送信距離の向上を目指し研究開発を続ける。

 Poon氏は、インテルで無線関連技術の開発に携わった他、60GHz帯を利用してHDテレビ信号を送信するチップセットなどを手掛けるSiBEAMでも勤務した経験を持つ。

【翻訳/編集:EE Times Japan】

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