タイ軍事クーデター下の日系製造業、影響は軽微にとどまるのかタイから見た製造業の今(5)(2/2 ページ)

» 2014年06月04日 11時10分 公開
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製造拠点としてのタイ、今後の見通し

 今後の日系製造業へのビジネスへの影響を考えますと、以下の4つの障害が想定されます。

  1. さらなる国内混乱で物流に支障が出る
  2. 輸出入の通関手続きに遅れが出る
  3. 内戦となり工場労働者が不足する
  4. 海外(特に欧米)からの経済制裁が強化されて輸出入量に影響が出る

 このうち、12の物流面での障害はあり得ると考えますが、34については、起こり得ないだろうと見ています。理由は「赤シャツ」派と対抗している「黄シャツ」派※)のビジネスにも影響するからです。また、国王の軍であるタイ王国軍がそこまでの内戦を許さないとも考えられます。

※)都市部の富裕層や軍部、司法などが支持する派閥。国王の生まれた曜日の色が黄色ということで、黄シャツを着ている。

 しかし、現時点では落としどころは見つかっていません。「ほほ笑みの国」の笑顔の下に隠された熱い情熱が爆発する……というような事態になれば、どういうことになるのか分からないところがあります。

兵士デモ バンコクでのデモの様子

日系製造業はどういう対策を取るべきか

 では製造業はどういう対策を取ればいいのでしょうか。日本の製造業の皆さんに伝えたいのは「アジアの国々ではいつ何が起こってもおかしくない」ということです。ですから、ビジネスや拠点も1カ国に集中させることなく、複数国に分散させ、リスクヘッジすることが不可欠となります。先進企業は既に複数国でのサプライチェーン構築に取り組んでいます(関連記事:チャイナプラスワンだけじゃない! 「タイプラスワン戦略」をご存じですか?)。

 また、アジアで成功したいのであれば、自社が重要だと考える地域に優秀な人材を派遣することが重要だと考えます。インターネットなどで実ビジネスが成立するのはまれです。「Face to Faceの場をいかに現場で作ることができるか」ということが、特にアジアへの進出については成功する企業となると考えています。

 2014年6月1日時点でタイ軍は「民政復帰に向けての道のり」を発表しています。バンコク市内は一部の反クーデター集会を除いては平穏といえます。軍政府も日本商工会議所に対して経済活動の保証を表明しているので大きな支障はでていません。夜間外出禁止令も、物流車や入出国者および工場での夜勤労働者には適用されませんので、生産活動にも今のところは問題ないといえます。

 外国人であるわれわれには、現状の推移を見守るしかないというのが現実ですが、筆者としましても、今後の方向性として、2つのことを考える必要があると考えています。

  1. タイ以外の東南アジアビジネスの拡大を2014年後半は推進する(特に日系製造業の進出が進むインドネシア)
  2. タイ国内のビジネスは中国での状況と同様に、ローカルビジネス(タイ大手企業に対するセールス)を推進する

 これらの対処策を通じて、筆者自身もビジネスを展開していこうと考えています。今後もタイの政情の変化に伴い、日系製造業の現状を随時、皆さまにご報告させていただきます。

著者略歴

アスプローバ株式会社
副社長 藤井賢一郎(ふじい けんいちろう)

半導体工場のSEとして生産管理システムを開発。営業に転じてからは、製造業のお客様に向けたシステム提案一筋に従事。生産管理パッケージソフトウェアを100社以上に導入した他、生産計画ソフトウェアの採用が300社以上に達した実績がある。2012年まで、アスプローバチャイナ社の総経理として活躍、2013年からは、チャイナ・プラスワンビジネスとしてタイに赴任予定。




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