日本発のEV用急速充電規格「チャデモ」はなぜ国際標準になれたのか和田憲一郎の電動化新時代!(13)(2/3 ページ)

» 2014年06月17日 10時20分 公開

国際舞台で標準を成立させるために必要なこと

和田氏 結果的にチャデモはコンボと対立することになった。そういった環境下で標準を成立させるにはどのようなことが必要だったのか。

灰田氏 やはり応援団の存在だ。チャデモは初期段階から国際的な組織作りを志向し、海外の企業/団体にも参加してもらって活動してきた。しかし、チャデモ協議会を発足した後、欧米の自動車メーカーが急きょチャデモに対抗する形でコンボを提案し始めた。コンボは実現の見通しがまだ立っていなかったので、コンボに参加する各社と個別協議を続けたが、結局考えを変えることはできなかった。これは中国のGBも同様だ。標準規格を広げる上で必要なファミリー作りはわれわれも初めての経験であり、標準化に強い欧米に対してどう進めていくか、その準備段階も含めて今後の課題だと考えている。

 またIECで提案する場合には、国を代表しての提案となる。現在の代表機関はJARIだ。つまりIECではチャデモ協議会は直接協議に参加できず、間接的となった。投票権はないリエゾンとして入るやり方もあったが、それは今後の検討課題になるだろう。

松永氏 ファミリー作りという点では、チャデモ陣営では欧州チャデモを設立し、総会や各種部会を通して、技術の横通しや市場関係者への展開を図ってきた。またEVS(国際電気自動車シンポジウム)をはじめ各種展示会にも参加し、多くの方々にチャデモの良さを実物で見ていただいた。最近では、外部検定機関がチャデモの検定を行うことが決まり、ULジャパン、TUVラインランドジャパン、スペインのIDIADAなどとも連携している。

正々堂々とした戦いでコンボに対抗

和田氏 チャデモに対してコンボ勢は激しい巻き返しを図ろうとしたが、最後までチャデモが対抗できたのはなぜか。

灰田氏 一言で言えば正々堂々と戦ったことに尽きる。コンボ勢は、電気自動車や急速充電器がまだ1台もない状態でもかなり激しい攻勢をかけてきた。それに対してわれわれは、電気自動車とそれに適合するチャデモの急速充電器を、現物として見せて理解を得るようにした。欧米の自治体や協議会に説明する際も、実際に市場で利用されている方式であると説明してきた。

 技術的に出し惜しみしなかったことも重要な要素だ。IECなどからの質問に対しては、可能な限り技術資料を添えて回答し、懸念を払拭するようにした。これは先述したチャデモ協議会の技術部会における検討と実証による裏付けがあったことによるものだと思っている。

小園氏 規格の提案と同じタイミングで、米国、欧州ともに現地メーカーと協力していち早く認証を獲得し製品を市場投入してもらったことは、チャデモのファミリー作りに役立った。もし電気自動車も急速充電器も日本の製品を売ろうとしていたら今日の姿はなかったかもしれない。

メディアへの対応について

和田氏 チャデモ陣営としてメディアへの対応はどう考えているか。

丸田氏 確かにチャデモ協議会は広報部門を持っていないので、その面では不十分な点があった。あくまでチャデモ協議会に参加する個社に任せざるを得なかった。

 またこのような国際標準の成立過程では、きれいごとだけでなくドロドロとした政治的なものもある。その端的な例が、コンボ陣営による欧州委員会での独占的地位を得ようという動きだった。コンボ陣営は、欧州委員会に働きかけて、2017年からコンボのみを欧州域内の標準規格とする欧州指令を発動させようとした。

 そこで、欧州で既に1000台以上の急速充電器を設置してきた欧州チャデモの会員企業から、自国政府、欧州議会、欧州連合理事会に働きかけて、最終的に欧州委員会でチャデモや普通充電となるAC充電なども含めた複数の方式に対応可能な「マルチ充電器」を採用するという流れに持っていくことができた。これまで激しく対立してきた2つの方式が共存という形で決着したわけだ。今後、チャデモとコンボは、市場でどれだけ多くのユーザーの支持を獲得できるかを競争しながら、電気自動車の普及も目指すこととなる。

欧州におけるチャデモ急速充電器の設置状況 欧州におけるチャデモ急速充電器の設置状況。取材時点(2014年6月)で1110台に達している 出典:チャデモ協議会

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