IoTがもたらす“月の陰”でもつながる価値――「戦略転換が必要」とPTC CEOPTC Live Global 2014(2/2 ページ)

» 2014年06月17日 11時00分 公開
[三島一孝,MONOist]
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“スマートコネクテッドプロダクト”の4つの価値

 これらの環境変化の中、IoTのカギを握る“スマートコネクテッドプロダクト”にはどういう特徴があるのだろうか。大きなポイントとしては以下の4つの点が、従来にない利点を生み出すことができるといわれている。

  1. モニター(監視)
  2. コントロール(制御)
  3. オプティマイズ(最適化)
  4. オートメーション(自動化)

 ポイントは、これらがネットワークを通じて、場所や時間を問わずに行えるところだ。例えば、ペースメーカーの状況を常に監視することができたり、ドアホンが押された時の内容をスマートフォンで確認して遠隔操作でドアロックを開けることができる。また自動化や最適化の技術を利用することで、自律的に最適な稼働状況を判断するスマートファクトリなどを実現可能だという。

スマートコネクテッドプロダクトに合ったビジネスモデル

 これらを活用した新たなビジネスモデルの創出に成功した事例として化学物質解析などを行う米国のThermo Fisher Scientificと、空調機器および関連サービスを提供する米国Traneが、それぞれの事例を紹介した。

リドル氏 Thermo Fisher Scientific IT担当ディレクターのデビッド・リドル氏

 Thermo Fisher Scientificは化学物質の解析および解析機器などを提供する企業で主に製薬企業などを顧客に抱えている。2010年に顧客からの要望があり、新たな製品の開発を行った。それは、化学物質の爆発事故などがあった際に、消防隊が現地で原因となった化学物質を分析し、その結果を現場にフィードバックすることで最適な対策を打つことができることを求めるものだ。

 現場で調査してサンプルを取得し、持ち帰って解析を行い、結果を現場にフィードバックするまで早くても数時間かかっていた。しかし、現場の人間の時間が限られた中で、できるだけ早く原因を特定し、適切な対応を取る必要があった。そこで、ハードウェアだけでなくサービスも組み合わせた中で効果的なバリューを作り出すことを考えて生み出したのが「TruDefender」だ。

 これは、脅威となる物質が何かを端末で調査し、そのサンプルデータをすぐにコントロールサイトに送り、その結果を基に解析。SNSで自動で結果を隊員および指揮者に戻す仕組みだ。非常にシンプルでほぼリアルタイムに結果が確認できるため現場で遅滞なく有効な作業をすぐに行える。

 「製品として、サービスを組み込んだアーキテクチャを構築したことがポイントだ。ハードウェアとしてだけでなく、アプリケーション、Web、インフラ含めて全てを一元的に管理することで実現できた」とThermo Fisher Scientific IT担当ディレクターのデビッド・リドル(David Riddle)氏は語っている。

製品販売とサービスの売上高比率を逆転

 IoTおよびサービスを基軸にビジネスモデルの変革を進めているのが、Traneだ。同社はビルなどの空調機器および、空調設備管理サービスなどのビジネスを展開している。同社の現在の売上高は半分が製品販売によるもので、残りの半分がサービスによって生み出されたものだという。しかし利益としてはサービス部門が生み出すものが大半を占めており、サービス部門の売上高拡大を推進している。

タイバル氏 Traneのサービス&カスタマーケア部門バイスプレジデントのダン・タイバル氏

 新たなサービスとしてIoTを生かしたインテリジェントサービスプラットフォームを構築した。これは各空調機器に搭載したセンサーにより、空調情報を確認し、さらにそれをネットワーク経由で収集。いつでも快適な温度に保つ一方、エネルギーの使用状況や明るさ、なども合わせてリアルタイムで管理するというもの。製品だけでなく、ネットワークやクラウドシステムなどを複合的に組み合わせたサービスだ。

 Traneのサービス&カスタマーケア部門バイスプレジデントのダン・タイバル(Dane Taival)氏は「空調のサービス化を推し進めるために、製品を販売するのではなく、『建物の快適さ』というサービスを販売するという文化変革を進めた。新たなビジネスモデル構築を進める」と話す。

Trane Traneのインテリジェントサービスプラットフォームのイメージ図(クリックで拡大)

ライフサイクルの“月の陰”

 PTCでは2013年12月に米国ThingWorxの買収を発表しており、これらの大きな可能性を示すIoTに参画していく方針を示している。設計・開発現場を主戦場としてきたPTCがなぜIoTにチャレンジするのか。

 PTCでは、以前からさまざまな製品のライフサイクルマネジメント製品を提供している。製品のライフサイクルを管理するPLM(Product Lifecycle Management)、ソフトウェアのライフサイクルを管理するALM(Application Lifecycle Management)、サービス部品などのライフサイクルを管理するSLM(Service Lifecycle Management)などだ。しかし「ライフサイクルを製品が生まれてから廃棄するまでと考えた場合、一貫して全ての状況が見える状況にはなっていなかった」とヘプルマン氏は語る。

月 月をバックに話すヘプルマン氏。NASAの月探査船の“月の陰”を例にライフサイクルのすき間を紹介した

 その見えなかった部分というのが、顧客が製品を使っている時の様子だ。「製品が開発されて販売されるまで」と「故障して修理する時」についての情報はあるが、実際にその製品がどのような使われ方をしており、どういう状況にあるのか、ということを把握することはできない。その従来のすき間の部分を埋める存在がIoTだというのだ。

 ヘプルマン氏は「NASAが月面探査船を月に送っていた時代、探査船が月の裏側に回り“月の陰”に入った時には地球から交信ができなくなる時間があったという。その際には非常に大きな不安があった。PTCのソリューションにとってその“月の陰”が製品が顧客の元で使われている時間だった。IoTにより、この“月の陰”の部分を埋め、包括的なライフサイクル管理が行えるようになる。そして、これらのサービスを包括的に提供できるのはPTCだけだ」と強みを語っている。

クローズドループ PTCが目指すクローズドループ。このループのすき間を埋めたのが「IoT」だ(クリックで拡大)

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