“医療城下町”を作る静岡、「ファルマバレー構想」で中小企業を強力に支援医療機器ニュース

静岡県は、主に東部地域を中心として、医療産業を推進する「富士山麓先端医療産業集積構想(ファルマバレー構想)」を掲げている。2016年には、医療研究などを促進し、地域の雇用創出にも貢献する新しい拠点が完成する予定だ。

» 2014年08月27日 18時10分 公開
[村尾麻悠子,MONOist]

“医療城下町”を作る

 静岡県は、医薬品や医療機器の生産額が全国でもトップクラスである。医療産業に力を入れる同県は、県、医療機関、大学、企業が一体となって、「富士山麓先端医療産業集積構想(ファルマバレー*)構想)」と呼ぶプロジェクト(以下、ファルマバレープロジェクト)を、10年以上にわたり進めている。

 同プロジェクトは、製薬/医療機器工場や、製薬企業の研究施設が特に多く集まる静岡県東部地域で、“医療城下町”を作ってはどうか、という声が発端になったものだ。県立静岡がんセンターを中心に、国立遺伝学研究所や、大学などの教育機関、自治体、地域の企業と連携し、医療関連の研究開発や医薬品/医療機器の販売促進、雇用の創出などを目指している。

*)ファルマバレー=Pharma Valley。「pharma」は医薬品を意味する接頭語である。

「ファルマバレープロジェクト」の記者説明会に登壇した静岡県経済産業部 商工業局の水口秀樹氏

 静岡県経済産業部 商工業局の水口秀樹氏は、「同様のプロジェクトでは、大学が主体になっているところが多い」と述べる。その点、ファルマバレープロジェクトは静岡がんセンターが中核になっているので、臨床に基づいた研究ができたりニーズを提供できたりするという大きなメリットがある。「病院が主体となるのは珍しい上に、プロジェクト自体の規模も(全国的に見て)大きいのではないか」(同氏)。

新施設の建設で、大企業から中小企業までをバックアップ

 静岡県は2014年8月26日、ファルマバレープロジェクトを推進する静岡県産業振興財団ファルマバレーセンター、静岡がんセンターとともに東京都内で記者説明会を実施し、ファルマバレープロジェクトの一環として設立する新拠点施設などについて紹介した。

 新拠点施設は、ファルマバレープロジェクトにおいて、地域の経済基盤の確立を担う。医療技術の研究開発や製品化の加速を支援する他、国内外への販路拡大もサポートする。旧長泉高等学校の跡地に建設され、現在、詳細設計を進めている段階だ。議会手続きを経て、2015年3月ごろに着工、2016年3月に完成する予定となっている。

 同施設は、1)プロジェクト支援・研究ゾーン、2)リーディングパートナーゾーン、3)地域企業開発生産ゾーンの3つのゾーンで構成される。

 プロジェクト支援・研究ゾーンでは、小規模のレンタルラボやレンタル事務所を、企業や大学向けに提供する。リーディングパートナーゾーンは、高いレベルの研究開発を進めていて、かつ地域企業にも協力できる大企業を支援するエリアだ。地域企業開発生産ゾーンは、地域の中小企業の開発や生産に活用してもらう。

新拠点施設の場所(左)と、3つのゾーン。静岡がんセンター(静岡県駿東郡長泉町)の向かい側である(クリックで拡大)

 プロジェクト支援・研究ゾーンに入居した場合、静岡がんセンターが保有する研究成果やゲノム情報、ファルマバレーセンターが保有する11万7000件の化合物ライブラリを活用できる。ただし、活用にあたっては原則的にがんセンターやファルマバレーセンターとの共同研究が前提になる。さらに、施設使用料金も1m2当たり月額600円程度と、利用しやすい設定にした。

テルモなどが入居予定

記者発表会の会場に展示された、テルモの輸液ポンプシステム。テルモはOCT画像診断システムにも力を入れている(クリックで拡大)

 現時点で、リーディングパートナーゾーンにテルモが、地域企業開発生産ゾーンには、医療用のネジなどを製造する東海部品工業が入居することが決まっている。静岡県によれば、2015年4月から入居企業/大学の募集を開始するという。

 テルモは、静岡県富士宮市の愛鷹工場内にあるME(Medical Electronics)センターを、リーディングパートナーゾーンに移転する予定だ。MEセンターは医療用の電子部品の開発を行っている。同ゾーンに入居したあとは、技術だけでなく、地域企業に対し、薬事法の最新情報を提供したり、「ISO 13485(医療機器)」など医療関連の規格の運用を解説したり、人材育成においても地域に貢献したいとしている。

会場には、東海部品工業が製造するネジなども展示された(クリックで拡大)

 東海部品工業がファルマバレープロジェクトおよび新拠点施設に求めるものは、販路の拡大だ。代表取締役である盛田延之氏は、人工歯根、骨固定用スクリュー、頭蓋骨用ネジなど同社が扱う分野は輸入品にシェアを取られている状態だと語る。ただし、医療品は患者一人一人に合わせたカスタマイズ品や、日本人の体形に合ったものが必要になる場合も多い。盛田氏は、高い切削加工技術を生かして、「日本人の体形に合う製品を開発していけば、同分野でも十分勝負できる余地はある」と話す。安定した販売経路を築くためにも、新拠点施設への期待は大きい。

 水口氏は、「地域企業開発生産ゾーンは、中小企業にとって“ホップ・ステップ・ジャンプ”の“ステップ”に当たるところ。新拠点施設で力を蓄えて、国内外に向けて大きく成長するのを支援したい」と強調した。

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