「アメーバ経営」とは何かいまさら聞けない 「アメーバ経営」入門(1)(1/2 ページ)

グローバル競争の激化により多くの日系製造業が苦しむ中、にわかに注目を浴びているのが「アメーバ経営」だ。京セラをグローバル企業に押し上げ、会社更生法適用となったJALを復活させた原動力は何だったのか。本連載では、「アメーバ経営とは何か」を解説するとともに、その効果を示す事例としてJAL整備工場での変化について紹介する。第1回となる今回は「アメーバ経営」そのものを紹介する。

» 2014年09月12日 10時00分 公開

 「これ以上はどうやっても赤字だ」――。参入各社が音を上げるそんな厳しい経営環境の中でも勝ち残り、利益を出す。そんな不可能にも思えることを成し遂げ、黒字経営を続けている企業が京セラだ。なぜ他社にできないことが京セラにできるのか。その京セラの経営手法の根幹をなすのが「アメーバ経営」だ。アメーバ経営は、会社更生法を適用した日本航空(以下、JAL)にも適用され、目覚ましい成果を残している。

 本連載では、「アメーバ経営とは何か」を解説するとともに、その効果を示す事例としてJAL整備工場での変化について紹介する。第1回となる今回は「アメーバ経営」そのものを紹介する。

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アメーバ経営とは

 「アメーバ経営」は、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏(日本航空 名誉会長、KDDI 最高顧問)が企業経営の実体験から編み出した経営手法で「経営は一部の経営トップのみが行うのではなく、全社員が関わって行うべきだ」という考え方が貫かれています。

 この経営手法の最大の特徴は、採算部門の組織を5〜10人という小さな単位(アメーバ)に細分化し、それぞれがまるで1つの会社であるかのように独立採算で運営することです。社員全員が自部門の利益を意識しながら創意工夫を重ね経営に参画するということが特徴で、全員参加の経営を実現する経営管理の仕組みです。

アメーバ経営の3つの特徴

 アメーバ経営の3つの特徴は以下の通りです。

  1. 非常に小さな組織で独立採算(役割・責任の明確化)
  2. 収支決算は「時間当り採算」
  3. タイムリーで正確な経営情報

 まず1つ目の『非常に小さな組織で独立採算(役割・責任の明確化)』ですが、組織を採算管理できる最小の単位に分けることで、一人一人が自分たちの活動成果が分かるようになります。各アメーバの売上、利益、経費などの収支は、月が終わると直ちに集計され、全社員にオープンにされます。これにより、経営者はどの部署がどのくらいもうけているか一目瞭然で分かるようになり、社員も自分がどれだけ利益に貢献できたかを知ります。その結果、社員一人一人が利益を意識し、それを生み出す意欲と責任を感じるようになるのです。

 2つ目は、『収支決算は「時間当り採算」』です。一般の社員にも経営数字を理解しやすいように稲盛氏が考え出したのは、部署ごとに「採算表」と名付けた家計簿のような帳簿を付けることでした。これが時間当り採算表で、家計簿とほぼ同じ構造です。知識も経験もない素人の社員がなじめるようにするには、「家計簿を付けられれば誰でも経営できる」というくらいの分かりやすさが必要です。製造部門のアメーバで使う採算表では、家計簿の収入にあたるのが「総生産」、支出にあたるのが「経費」、残高にあたるのが「差引収益(利益)」としています。さらにアメーバがもうかっているかどうかが一目瞭然となるよう「時間当り付加価値」という指標も作られました。「時間当り付加価値」は差引収益を総時間で割って算出するもので、アメーバの規模が違っても収益性を比較できる便利な指標です。アメーバの余剰能力や経営効率を見ることができるので、アメーバが創意工夫を生み出すための重要な指標となります。「時間当り採算」を実行することにより、社員一人一人がどのように動けば会社の売り上げを向上させ、自分の給料の原資となる付加価値を増やすことができるのかを理解することができるようになります。

photo 図1:アメーバ経営における経営指標(クリックで拡大)

 3つ目は、『タイムリーで正確な経営情報』です。アメーバ経営では、各アメーバに毎日概算の収支の実績が伝えられるので、月の後半ともなればリーダーが月初に立てた予定の達成に向けて順調かどうかが見えてきます。つまりリアルタイムで経営数値が現場に伝わるわけです。もし順調でなければ、アメーバリーダーを中心に利益を増やす方法を考え、実行していくしかありません。利益を増やす方法は、3つあります。すなわち「売り上げを増やす」「経費を減らす」「時間を減らす(時間当り付加価値を上げる=生産性を上げる)」ということです。アメーバリーダーはメンバーとともに、これら3つの方面から創意工夫に励みます。また、アメーバ経営を導入する際には、経営情報を集計し、リーダーが使いやすいように加工して提供する業務を担う部署が必要となります。一つ一つの情報は、情報システムを活用してほぼリアルタイムでつかみ、会計や経営の知識がなくても分かる形にして各リーダーに提供していきます。

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