オムロンが「卓球ロボット」で訴えたかったものCEATEC 2014(1/2 ページ)

「CEATEC JAPAN 2014」で大きな注目を集めているオムロンの「卓球ロボット」。ロボットそのものを製造しているわけではないオムロンが、なぜ卓球ロボットを出展したのだろうか。卓球ロボットが製造技術にもたらす価値について考察する。

» 2014年10月10日 07時00分 公開
[三島一孝,MONOist]
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 オムロンは「CEATEC JAPAN 2014」(2014年10月7〜11日、幕張メッセ)で、「ラリー継続卓球ロボット」を出展し、大きな注目を集めた。ロボットの詳細やデモの様子についてはこちらの記事『オムロンの「ラリー継続卓球ロボット」は相手を気づかいながらラケットを振るう』で紹介しているが、本稿ではオムロンの製造技術系の他の展示に触れながら、オムロンがこのロボットを通して訴えたかったモノについて考察してみる。

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 オムロンは製造装置やロボットの制御機器および制御技術などで高い評価を受けている企業だ。制御技術とは、製造装置やロボットをどのように動かすかということをコントロールする技術。高精度で機器への指示を出すとともに、どのように動かすかというノウハウをプログラム化するということがポイントとなる。

 CEATEC JAPAN 2014で行ったさまざまなデモも、基本的にはこの制御技術が製造現場にどのような価値をもたらすかという点を追求したものだ。今回オムロンが出展した、ラリー継続卓球ロボット以外の製造系技術には、「制振制御デモ」と「二重倒立振子デモ」があった。

振動をプログラムで止める技術

 「制振制御デモ」は、文字通り、高速搬送時に運搬物を揺らさずに移動させることができる技術だ。CEATEC JAPANでは、オムロンのPLC(Programmable Logic Controller)「Sysmacシリーズ」を使い、バネの上のボールやコップ満杯の水を揺らさず高速移動させるデモを行った。コップのデモは、満杯の水をこぼさずに高速移動させるというもの。一方のボールのデモは、長さの異なる金属片6種類の先にボールを取り付け、周波数の異なる揺れが発生した場合でも全て止めてみせる、というものだった。

photophoto オムロンの制振制御デモ。左右に高速移動する中で、周波数の異なる揺れを止めるデモ(左)とコップの水をこぼさずに高速移動させるデモ(右)(クリックで拡大)

 制振技術は、搬送やロボットの制御など多くの場面で利用されており、特別なものではないが、採用されている多くの技術は製造機器に内蔵されたモーターに組み込まれたものだ。一方で、オムロンの技術はPLCによるコントロールと、それに組み込んだ揺れを抑えるアルゴリズムだけで、揺れを抑えることが可能である点が特徴だ。そのため、製造ラインに物理的な手を加えることなく、制振性を高めることが可能になる。既にこれらのアルゴリズムについても、「Motion Control Function Block(モーションコントロールファンクションブロック)」という汎用性のあるプログラムの1つのパッケージとして提供されているため、開発などを含めたエンドユーザーの負担は小さくて済む。

 これらの技術により揺れを抑えることで、実際の製造現場では歩留まりの向上が可能。また、揺れが収まるのを待つ時間や抑えるために必要な設備の導入が必要なくなり、コストを低減できる。さらに機器メーカーにとっても移動物の剛性などを気にすることなく、機器設計の制約を減らすことが可能となるという。

ぐにゃぐにゃ棒を超絶バランスで立たせる

 「二重倒立振子デモ」は、1つの振子の先にもう1つの振子を取り付け、それを倒立させて維持するというものだ。2つの画像センサーにより、2つの振子の傾き情報を検出し、それを台車をコントロールするPLCに高速でフィードバックし、コントロールするという仕組みを取っている。

 隣には人間が、この制御に挑戦できるコーナーが用意されていたが、見た限りでは倒立状態を維持できた人はいなかった。同制御技術による“職人技”がいかに優れているかが伺える。

photo 二重倒立振子のビジュアルフィードバック制御のデモ。台車の動きを制御するだけで、稼働する2点を持つ棒をまるで1本の棒のように安定させ、バランスを保っている(クリックで拡大)

 実は、同技術のポイントは、この制御を実現したことだけではなく、この制御プログラムの動作確認を、MathWorksの「MATLAB」を利用した仮想環境上のシミューレーションで行ったことだ。MATLABでシミュレーションを行い、それを自動コード生成によりPLCに取り込むという、非常に容易なプロセスで、実際の製造ラインに適用できるようになる。同技術は、自動車製造ラインにおけるさらなる自動化実現や、2足歩行ロボットのバランス制御などに活用できるという。

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