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» 2014年10月29日 10時00分 UPDATE

知財専門家が見る「アップルVSサムスン特許訴訟」(1):アップルVSサムスン特許訴訟の経緯と争点を振り返る (1/2)

アップルとサムスン電子のスマートフォンに関する知財訴訟は、2014年8月に米国を除いて全て取り下げられることになった。なぜ、今になって訴訟を取り下げたのか。なぜ、米国は除外されたのだろうか。これらの背景について知財専門家が読み解く。初回となる今回は、まず特許訴訟の経緯と争点について振り返る。

[藤野仁三/東京理科大学院 知的財産戦略専攻 教授,MONOist]
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 米国アップル(Apple)と、韓国サムスン電子(Samsung)のスマートフォン端末およびタブレット端末に関する知財訴訟は2011年から世界各地で繰り広げられてきました。そして2014年8月6日に米国を除く全ての地域でこれらの訴訟を取り下げることを両社は共同発表しました。世界各地を巻き込んだこれらの知財バトルの背景には何があったのでしょうか。これらの疑問を読み解くには、事件の概要を振り返るとともに、スマートフォンビジネスの現状、両社の企業戦略を考えなければなりません。

 そこで本稿では、これらの訴訟の経緯を振り返るとともに、「なぜ訴訟する必要があったのか」「争う根幹に何があったのか」などの点について、解説していきます。今回は、訴訟の経緯と争点について振り返ります。



アップルの先制攻撃とFRAND違反

 両社の裁判は2011年4月にさかのぼります。最初に訴訟を仕掛けたのはアップルでした。アップルは、サムスンのスマートフォン端末「Galaxy」シリーズとタブレット端末「Galaxy Tab」シリーズがアップルの特許、意匠、商標を侵害するとして米国、ヨーロッパ、アジア、オセアニアの諸国でサムスンを訴えました。これにサムスンもすぐ反応。サムスンは、それぞれの国ですぐに自社の特許にiPhone/iPadが侵害するとしてアップルを訴えました。

 またたく間に訴訟は広がり、2012年には世界10カ国で争われることになりました。アップルの主張は「タッチパネルなどの先端技術に関連する特許、意匠、商標などの侵害」です。一方のサムスンは「広範な技術分野でアップルが自社特許を侵害する」と主張して対抗しました。裁判が行われた国は、米国、ドイツ、フランス、英国、イタリア、オランダ、スペイン、オーストラリア、韓国、日本の10カ国におよびました。

 裁判の特徴は、グローバルな訴訟戦略を採っていることに加えて、アップルの主張する「FRAND(フランド)違反」の問題が裁判で争われたことです。FRANDの問題は、サムスンの必須特許宣言に起因するもので、サムスンが無線通信技術に関する必須特許を「公正、合理的かつ非差別的な」条件(FRAND)でライセンスすることを拒んでいるのは標準化機関の「知的財産権ポリシー」(IPR Policy)に違反するとアップルは主張しました。欧州委員会もこれが新しい形態の競争法(=独占禁止法)違反問題だとして調査を決定し、知財訴訟に新たな一面をもたらしたといえます。

訴訟の動き

 訴訟直後は、アップルが優勢でした。実際にいくつかの国でアップルの仮差し止めの請求が認められています。例えば、オランダではサムスンのスマートフォンの初期の一部機種が、そしてドイツではタブレット端末が、アップルの意匠権を侵害するとして仮差し止めの命令を受けました。

 しかし、その他の国では仮差し止めは認められませんでした。オーストラリアや米国では、一審で仮差し止め命令が認められたのですが、結局控訴審で一審の判決が破棄されています。

 2012年になると、知財権の侵害問題をめぐる審理が本格的に始まりました。2012年7月には英国で意匠権の侵害をめぐる判決が出されました。英国の一審はアップルの主張を認めず、アップルが敗訴しました。2012年8月には韓国、米国、日本でも一部判決が下りました。韓国の裁判所は両社の主張を退け、痛み分けの判決としています。日本ではサムスンの特許侵害は認めず、アップルの主張は認められませんでした。

 ところが、米国のサンノゼ地裁ではアップルの全面的勝訴となりました。この判決はメディアでも大きく取り上げられ、関心を呼びました。サンノゼ地裁の判決は、陪審裁判でした。

 また、2013年の2月には、日本の東京地裁が民法の基本原則を適用して、サムスンには特許の損害賠償を求める権利はないという注目すべき判決を出しました。しかし知財高裁は2014年5月、地裁の判断を退け、アップルのサムスンへの特許侵害を認め損害賠償額を算定しています。

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