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» 2014年12月11日 09時00分 UPDATE

知財専門家が見る「アップルVSサムスン特許訴訟」(3):アップルVSサムスン訴訟を終わらせた日本の工作機械の力 (1/2)

知財専門家がアップルとサムスン電子のスマートフォンに関する知財訴訟の内容を振り返り「争う根幹に何があったのか」を探る本連載。最終回となる今回は、最終的な訴訟取り下げの遠因となった「新興国への技術移転」の問題と「なぜ米国で訴訟取り下げを行わなかったのか」という点について解説します。

[藤野仁三/東京理科大学院 知的財産戦略専攻 教授,MONOist]
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 米国アップル(Apple)と、韓国サムスン電子(Samsung、以下サムスン)のスマートフォン端末およびタブレット端末に関する知財訴訟の背景に何があったのか、を解説する本連載。前回の「サムスンを縛ったFRAND宣言とスマートフォンOSの覇権争い」では、訴訟において重要なポイントとなったサムスンのFRAND宣言と、スマートフォンOSの推移について解説しました。

 最終回となる今回は、最終的な訴訟取り下げの遠因となった「新興国への技術移転」の問題と「なぜ米国で訴訟取り下げを行わなかったのか」という点について解説します。



標準化、オープン化の抱えるリスク

 米国アップル(Apple)と、韓国サムスン電子(Samsung、以下サムスン)というスマートフォンの両雄の知財紛争は、世界で大きな注目を集めました。実は、和解のためのトップ会談が何度かあったのですが、なかなか合意に至らなかったのだといいます。しかし、それがなぜ2014年8月に裁判の取り下げを決意したのでしょうか。そこには廉価版のスマホで市場シェアを伸ばす新興勢力の存在があります。

 アップルとサムスンの争いを「標準技術をパッケージ化した製品同士のシェア争い」と考えると、これまでの報道では取り上げられていない新たな問題が見えてきます。すなわち「新興国への技術移転」という深刻な問題です。

 なぜ、基盤技術がまだ十分に育たない新興国で、ハイテクの象徴ともいえるようなスマートフォンが製造できるのでしょうか。また、その国の企業が、自社ブランドとして世界で展開することが可能なのでしょうか。これに対する回答は、実は日本の歴史を振り返ることで導くことができるのです。

工作機械が生産拠点を変えた

 一定の品質のものを大量に自動で製造するために使われる製造装置として工作機械があります。第二次世界大戦後の工作機械市場は、米国とソ連の両大国が二分していました。これらに対抗すべく、日本では、工作機械の中でも放電加工機とNC(Numerical Control)工作機械の開発に力を入れました。源流をたどれば、放電加工機はロシアの技術者が基本技術を発明しています。またNC工作機械は米国空軍のヘリコプターのプロペラを加工するために生まれたものです。しかし、最終的に日本企業が技術改良に成功し、日本製の工作機械が市場を席巻するようになりました。

 日本は1982年に工作機械の生産高で世界トップに立ち、それ以後ドイツの追い上げを受けながらも、トップの座をずっと維持し続けています。さらに、日本の工作機械の輸出額は1996年以降、急速に伸びました。大きな輸出先となっているのが、韓国、台湾、中国と他の東南アジア諸国です。

 日本からの工作機械輸出が大きく伸びたのは、デジタル機器の製品化が進んだ時期と一致します。デジタル化された製造技術がソフトウェアとして工作機械に組み込まれていきました。そこで、技術インフラの乏しい新興国でも、日本から購入した工作機械を使えば、一定水準の品質を確保した製品を生産できるようになったのです。

 従来の新興国の製品は安いが品質は低い「安かろう悪かろう」の製品でした。しかし、日本から輸入した工作機械を使用して製造した製品は、かつての「安かろう悪かろう」というイメージを払拭できるほどの品質向上を実現させたのです。このような製品が、価格メリットもあってやがて日本市場を覆い尽くしてしまうことになります。いわゆる「ブーメラン現象」です。結果的に競争力を維持できなくなった製品は国内生産をやめ、アジアに拠点を移すようになりました。

 デジタル技術をベースとしたICT革命は、従来とは異なる産業発達を促すことが明らかになっています。日本が誇っていた品質主義も、標準化されソフトウェア化された製造プロセスの普及によって、もはや絶対的な差別化要因として機能しなくなりました。それは日本の国際競争力の低下を見れば明らかです。

photo 最新の工作機械のイメージ(JIMTOF2014 DMG森精機ブース)
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