自分が欲しい物を作るためにコストと時間を惜しみなくかけた卓上CNCフライス開発メカ設計インタビュー(3/4 ページ)

» 2015年01月21日 10時00分 公開
[小林由美MONOist]

 筺体色については、黒以外の候補もあったという。「藤崎さんから、『おいしそうな色』、例えばクリーム色や明るい黄緑色などの案が挙がりました。デザインイラストの段階では『今までにない色合いで良いな』と納得していたのですが、いざ試作品に塗装してみると“すさまじい違和感”。仕方なく修正をお願いしたのですが、少々心残りでもあります。AST200はKitMillにおいては高級機種ということもあり、黒は無難な色といえますが、一方で思考停止のようにも思えてしまいます」(五味氏)。

 AST200に限らず、毎回、思った以上に苦労するのが配色だと五味氏は言う。「仕様や形状は何かと制約があり、自由度が限られているので、ある程度は論理的に決めて行けますが、配色の決定はそうはいきません。配色決定は工程的に量産直前になり、どうしても一番“辛い”イメージがあります」。

仕事ができるお母さん

 五味氏は、藤崎氏についてこう話す。「『仕事ができるお母さん』という感じ。丁寧で、物腰が柔らかくて、気回りが利く方。趣味や嗜(し)好については、常時とんでもない所にアンテナを張っていますね。あまりに元気がよいので、大学の頃の自分であれば何とか付いていけたと思うのですが、今の自分では、置いてきぼり感があります(笑)。『元気』という印象は、興味のあるものや新しいものに突き進んでいく姿はもちろんですが、仕事しているときの姿勢なども合わせてです」。

メイカーズムーブメント以前からのハードウェアベンチャー

 1997年に創業したオリジナルマインドは、メイカーズムーブメント以前からのハードウェアベンチャーで、中村氏自身も秋月電子とモノづくりが大好きな、いわゆる「メイカーズ」だ。創業当時の社員は、中村氏一人だけ。

創業当時の中村氏(27歳の時)

 今でこそ、自作ロボット好きの間で人気の同社だが、最初から全てうまくいっていたわけではなかった。設立後間もなく、ソフトウェアの受託開発をしながらステッピングモータを使った自社製品販売をしていたが、採算が合わずに断念。しばらくは産業機械や部品などの中古販売に注力し続けていた。

 2002年、自社製品に再チャレンジしたいと考え、中村氏がMY工作室と共に開発着手したのがCNC化した卓上フライス機だった。当時、「CNCフライス」といえば、高価な工作機械しかなかった。2003年9月に発売となった「mini-CNC」は、制御盤ではなくPCを用いることでコストダウンをかなえた。

オリジナルマインド 代表取締役 中村一氏

 「2004年ごろ、2足歩行ロボットの製作がブームでした。ロボットのパーツには『カッコよさ』を演出するための美しい曲線や、軽量化のための肉抜き、精度の高い穴などが必要になりますが、それらは手加工では到底実現し得なかったんです。このため複雑形状を精度よく、しかも自動でいくつも加工できるCNCの必要性が高まりつつありました」(中村氏)。mini-CNCは発売当初、そんなロボットフリークたちにぼちぼち売れていった。そのビジネスが大きく成長したきっかけは、ロボットクリエータの井上裕二氏が、自身のブログでmini-CNCを紹介してくれたことだった(関連リンク:井上裕二氏によるレポート)。mini-CNCは、いまや製品名ではなく、卓上CNCフライスの通称としてまかりとおる。「まさか、あんなに売れるとは思わなかったんですよ」と中村氏は当時を振り返る。少々悔いが残るのは、「mini-CNCの商標を取っておかなかったこと」。ともあれ、これがきっかけで卓上CNCフライスの事業の売上が伸び、幸いにしてビジネスが軌道に乗った。後にmini-CNCのメカ設計を見直し、組み立てキット化したのがKitMillだ。KitMillについては、過去の反省を踏まえて商標を押さえたとのことだ。

 「mini-CNCも、単に自分が欲しかったから作っただけなんです」と中村氏は言う。オリジナルマインドの開発方針は、創業当時からずっと「プロダクトアウト」である。開発側の思いがダイレクトに顧客に伝わってしまうからこそ、開発の当事者たちが楽しむことや、内側から自然とこみあげてくる思いを大事に、手間や時間を掛けることも惜しまないという。

創業者のマインドを受け継ぐ

 現在、中村氏は設計開発現場から退き、五味氏のような、同氏の思いに引きつけられた若手技術者たちが同社製品の設計開発や販売に携わっている。

 五味氏はかつてオリジナルマインドの顧客だった。2007年当時、まだ学生だった同氏は、同社の近所にある大学でロボット製作をしていて、その部品調達で利用していた。当時から同社はインターネット販売がメインだったが、近所ということから、たびたび直接部品を買いに訪れていた。

 当時は、卓上CNCフライスのビジネスが順調に伸びていたころで、中村氏一人では設計開発が回らなくなってきていた。五味氏との会話の中で、彼がロボコンでいつも好成績を収め、並々ならぬ情熱でモノづくりに取り組んでいることを知り、中村氏が熱心にスカウトし、引き入れたそうだ。

 五味氏の専門はもともと電子回路だったが、入社後にメカ設計やソフトウェア開発を自力で学んだという。現在は、通常であれば何人かのチームで製品開発するところを、たった一人でこなしてしまうとのことだ。

 「五味さんは、学生時代からのロボコンで培ってきたハードとソフトの設計ノウハウを豊富に持っていて、私も学ばせてもらうところがたくさんあります。それに加えてフィギュア製作の趣味もあり、動かすだけでなく、“魅せる”部分での感性も豊かな方だと思います。『擬人化好き』なところとか、私とよく似ていますね」(藤崎氏)。

 プロダクトアウトということで、五味氏が今後、開発してみたい製品としては、まず「アルミの切削片を再利用する方法や機器」を挙げた。「CNCを使っていると、無数に穴を開けた板が残ります。『小さな部品なら余白部分から削り出せるかな』と思ってこの板を取っておくのですが、使う機会がなかなかなくて、これが山のように残ってしまいます。かと言って、捨てるには惜しい……。このモヤモヤを解消したいです。端材を利用して、新しい真っ更な板材が生成できたら最高なんですが、これは難しそうです」。

 もう1つは、「ロボットコンテスト向けのサーボモーターやドライバのセット」。「ロボコンが趣味なので、単純に自分が使いたいものです。ある程度は自分で作って使用していますが、毎回、回路やプログラムの実装が面倒なので、ユニット化していて簡単に使えるものが良いなと思います」(五味氏)。

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