“究極の強制空冷”を備えるMac Pro、開発コストを大幅削減したECUCAEセミナーリポート(1/3 ページ)

熱対策セミナーにおいて、熱対策が充実しているというMac Proの例や、エンジンコントロールユニット(ECU)の高精度モデル作成によるコスト削減事例が紹介された。

» 2015年02月19日 11時00分 公開
[加藤まどみ,MONOist]

 2015年1月16日、「プリント配線板EXPO」内の設計・開発特別セミナーにおいて、電子機器の熱対策に関する講演が行われた。登壇者はサーマルデザインラボ 代表取締役の国峯尚樹氏と、デンソー 基板ハードウェア開発部 第1ハードPF開発室 担当係長の篠田卓也氏である。国峯氏は最近の電子機器の熱に関する課題を示すとともに、その対策を体系的に整理し、具体例も紹介した。また篠田氏は、近年の自動車の高制御化、小型化に伴うエンジンコントロールユニット(ECU)の発熱量増加に対する効率的かつ高精度な熱設計・熱解析の事例を紹介した。

熱によって発生する問題に変化

 国峯氏は「近年は熱問題に取り組む理由に変化が見られる」と言う。従来は故障を防ぎ寿命を確保するためだったが、近年は熱の高密度化が進むに従い、熱暴走や処理速度の低下など、機能・性能を阻害する例が増えてきた。さらに低温やけどや発火・発煙など安全面の問題も生じている。特に自然空冷の機器については容積に応じた冷却限界があり、モバイル機器は徐々にその限界ラインに近づいていると国峯氏は話す。とりわけ小型部品は表面積が小さく、表面からの対流・放射が期待できないため、取り付けられる基板なしには成り立たない。つまり部品を冷却する責任は部品の供給者ではなく使用者にあるということだ。

 放熱の方法は、伝熱面積の拡大、熱伝達率の拡大、そして機器内部温度の低減の3つに集約される。機器の放熱経路については現在二極化しているという。従来は部品から発生した熱は、内部空気を経由して通気口を通り、外部へと放出されるという経路を取っていた。だが最近のモバイル機器には密閉が要求されるため、放熱経路が大きく異なる。換気の代わりに部品の熱を配線や基板、筐体へ受け渡して放熱する。「熱伝導という“リレー”で大事なことは、“バトン”を落とさないこと」(国峯氏)であり、バトンを落としがちなのが接触の部分だという。

熱伝導を用いた放熱

 国峯氏は熱伝導を使った熱の拡散の方法について具体的に解説した。小型部品の温度は基板に依存している。部品周囲の基板上に放熱面があれば、基板の等価熱伝導率を上げることで、部品の温度上昇を低減できる。だが高密度実装のため基板の放熱面積が不足する場合は筐体を利用する。基板を経由して筐体に逃がす場合には、基板裏面に熱を導き、筐体に接触させて放熱する。また配線やビアなど熱を経由する材料の熱抵抗と接触熱抵抗を最小化しなければならない。これは基板に熱が逃げやすいパワー部品で有効だ。また部品の熱を直接筐体に逃がす構造も考えられる。部品を直接放熱シート(TIM:Thermal Interface Material)を介して筐体に接触させる。この方法は上面に熱が逃げやすい大型集積回路部品に向いている。

図1:高密度実装基板では、基板の面内放熱のみだと限界があるため、上下の筐体から熱拡散を行う

 筐体への放熱でカギとなるのは、接触熱抵抗の低減だと国峯氏は言う。TIMにはサーマルグリースや熱伝導シート、PCM(相変化材料)、ジェル、また高熱伝導接着剤やサーマルテープなど、さまざまな種類がある。一方、TIMの接触抵抗にはさまざまな特性が関与する。厚みと熱伝導率から計算したシートの熱抵抗と、界面の接触熱抵抗を含む実際の熱抵抗とは大きく異なる場合がある。また熱伝導が大きければ接触熱抵抗が下がるわけでもない。条件に応じて適切なTIMを選定する必要があるということだ。

放熱技術の詰まったMac Pro

 このように小型化で熱伝導による冷却が増えているとはいえ、圧倒的な熱輸送能力を持つのはやはり空気流動による放熱だという。その事例として、アップルが2013年末に発売した円筒形のパソコン「Mac Pro」を紹介した。Mac proはアップル自らが「“究極の強制空冷”を施した」という通り、充実した放熱対策が行われているという。

 円筒カバーの内部には縦に三角形に組み合わされたヒートシンクが入っており、各面にCPUボード、2枚のグラフィックボードが配置されている。中央上部に大型ファンが入っており、パソコンの下部から吸気を吸い込んで上に吐き出すようになっている。

図2:Mac Proの内部。三角形のヒートシンクの周りに3枚の大型基板が、上部にファンが配置されている

 ファンの基本法則から、どれだけ効率よく、かつ静かに冷却するよう設計されているかを国峯氏は説明した。冷却性能に関連する風量は、直径の3乗に比例し、回転数に比例する。一方、最も騒音に影響するのは圧力である。圧力はファンの直径の2乗および回転数の2乗に比例する。そのため直径を大きくして回転数を落とせば、圧力を維持したうえで風量を増やすことができる。つまりできるだけ大きなファンをゆっくり回すのがよい。一方、薄型の機器ではファンの直径もおのずと制限されるため、小型のものを複数使うことになる。すると圧力、回転数は増えて騒音が増える割に風量はあまり増えない。「Mac Proは160mm径のファンを700rpmと低速で回すため、まず音は聞こえない。騒音面から見ても、1番理想的な構造」だという。またベイパーチェンバーの採用や流路の工夫も盛り込まれており、熱的に非常に配慮された設計がされているということだ。

図3:ファンの性能と騒音の関係。ファンが大きいほど静かに冷却できる
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