“音”を“ワイン”に持ち替えて、ケンウッド出身者がワインセラーに懸ける夢小型ワインセラー市場を開拓(1/3 ページ)

多くのモノづくりベンチャーは「自分が欲しいモノ、好きなモノを作る」ということで新たな製品を生み出し、市場を切り開いてきた。しかし、マーケティングによって市場の存在を明確にした上でそこに挑戦して成功したモノづくりベンチャーがある。国内で小型ワインセラー市場を切り開いたデバイスタイルホールディングスだ。

» 2015年03月04日 12時00分 公開
[三島一孝,MONOist]

 モノづくりベンチャーには「今までにない革新的なモノを作りたい」「自分が好きなモノを作りたい」など、内発的な力で既成概念を壊し新たな価値を生み出すカタチで成功した企業が多い。ベンチャー企業のイベントなどに出席すると必ず「好きなモノを作る喜び」に起因する発言が多く飛び出す。製品そのものを革新するとなると、このアプローチは正しいといえる。

 しかし、技術や製品を追求する以外のアプローチでもイノベーションを成功させることは可能だ。イノベーションを初めて定義したのは経済学者のヨーゼフ・シュンペーターだとされているが、日本で考えられているような技術や製品の開発だけでなく、「新生産方法」「新マーケット」「組織の改革」など、さまざまな手法が考えられる(関連記事:その製品が売れないのは「良くないから」だ――一橋大学米倉教授)。これらのさまざまな手法で「社会・経済に新しい価値をもたらす」ことができれば、それはイノベーションになる。

「最初からワインセラーを作るつもりだった」

 その意味で、ターゲティングとマーケティングにより日本国内に、小型ワインセラーとコーヒーメーカーの新たな市場性を見込み、期待通りの成功を得たデバイスタイルホールディングスは、十分に革新的なモノづくりベンチャーということができるだろう。

 同社は2002年創業のベンチャー企業だ。創業メンバーの3人はケンウッド(現、JVCケンウッド)出身。代表取締役社長を務める宇賀直哉氏はもともとはケンウッドでホームオーディオの商品企画を担当していたという。しかし「ワインセラーやコーヒーメーカーの普及台数は、ワインやコーヒーの消費量に比べて少な過ぎると感じていた。最初からこれらの製品を作るつもりだった。ニーズに合う製品さえ出せれば、売れるという手応えを感じていた」と宇賀氏は語る。そこで2002年にケンウッドを退職しデバイスタイルホールディングスを設立した。

 当時の国内のワインセラー市場は、200〜300本以上の業務用クラスの製品しかなく、家庭で利用できるようなリーズナブルでコンパクトな製品がほとんどない状況だった。一方でワインの消費量については1990年代に大きく拡大しており、1997年には20万キロリットルを突破。「ワインを飲む」という慣習が大きく広がっていた状況だった。

photo 国内のワイン消費量推移(クリックで拡大)※出典:キリン

 これらの状況から「家庭でも気軽にワインを楽しみたいという人が確実に増えているのは間違いないと見ていた。従来は数百本クラスの業務用ワインセラーしか市場になく、これらを購入できるのは一部富裕層だけだった。ワインセラーの普及が広がっていないのはこの増えたニーズを満たせる製品がないからだと考え、一般的な人々が気軽にワインを楽しむためのワインセラーを開発しようと考えた」(宇賀氏)という。

 また「成長の余地は大きいものの、ワインセラー市場は成長したとしても市場規模は限られている。そのため、大手企業が参入しづらいことも取り組んだ要因だ」と宇賀氏は述べる。

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