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» 2015年05月13日 10時00分 UPDATE

3D設計推進者の眼:なかなかうまくいかぬ、公差設計推進の理想と現実 (1/2)

機械メーカーで3次元CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が実際に行った公差設計推進や、そこで直面した問題などについて語る。

[土橋美博/飯沼ゲージ製作所,MONOist]

公差設計を知っていますか?

 数年前から、雑誌やWebサイトなどの企画や特集で「公差設計」が取り上げられてきました。

 ここで、読者の皆さんに質問します。「公差設計を知っていますか?」

 ――答えは「もちろん」だと私自身は期待をします。9割以上の設計関係者が「知っている」と答えると思います。

 質問を変えてみましょう。「公差設計を行っていますか?」

 ――答えは、8割は「行っている」と返ってくるでしょう。更に質問してみます。

 「図面に幾何公差を入れていますか?」

 ――答えは「もちろん」だと思います。

 公差設計とは、設計者が寸法を決定する際に、部品加工によるばらつきを考慮した許容値となる公差を決定することです。これを行うには、統計学的な考え方が必要です。公差を付けることなど当たり前と言われるかもしれませんが、なぜ公差設計が必要なのでしょうか? 設計者が製品に要求される機能・製造・コストを考慮した正しい公差を付けているかが問題だからです。

 私自身、機械メーカーで3次元CAD運用や公差設計/解析を推進する中、この正しい公差に注目し、公差設計を設計プロセスの中に組み込もうとしました。公差設計とは設計本質の課題だと私は考えます。

 私の経験では、公差設計により一応の成果が得られました。成果を実感しているのは私だけではないはずだと思いますが、他の人の取り組みや評価の話が、私にはあまり聞こえてこないのです。それは、なぜなのでしょうか。

 以降では、私自身が実際に行った公差設計推進や、そこで直面した問題などについてお話していきます。

公差設計への取り組みの道のり

 私の現場では正しい公差設定を行うことを目的に、公差設計に取り組みました。全社的な取り組みとしての号令の下、公差理論や統計的手法などを正しく学び、手計算での公差設計から行いました。更に3D CADを用いて「TolAnalyst」(米ダッソー・システムズ・ソリッドワークス製)による公差解析を行いました。設計者は適切な公差の割り付けをし、公差の寄与率も明らかにしました。

 寸法公差についての公差計算は比較的理解しやすいものでしたが、幾何公差を反映する場合、レバー比(※)を計算する必要があり、やや難解になりました。ガタの理解や、統計学の理解も必要でした。その上で、手計算での公差計算を行いました。これによって、正しく理論を学ぶことができました。

 このやり方はCAEと同じです。構造解析理論、材料力学理論などを理解せずにツールを使ったとしても、その評価が正しくできません。公差設計もそれと同じ考え方です。

レバー比:レバー機構における支点からの距離の比率によって計算される公差の拡大・縮小。

公差設計のPDCA

 公差設計を行うのは設計者ですが、部品の状態や、組み立て状態を理解している製造部門もそこに巻き込みました。これは「公差設計のPDCA(Plan-Do-Check-Action)」を回すことが目的だからです。

 公差設計のPDCAとは以下になります。

  • P:公差の値を決める
  • D:公差を正しく表現する
  • C:工程能力を確認する
  • A:次の製品に反映する

 設計者以外の協力なしでは、このPDCAを回すことはできません。

 ちなみにここで述べた「C:工程能力」が何か、皆さんは分かりますか?(具体的には工程能力指数Cp・Cpkで表します)。公差設計教育・推進の第一人者である栗山弘氏(株式会社プラーナーの会長)と、公差設計のPDCAについてよく話をしますが、公差設計を学びに来た90%の人が、この工程能力指数を知らなかったとのことです。私自身も、この工程指数を正しく理解はしていませんでした。工程能力を調べることで、部品や製品の実態が分かります。ここには統計的手法が生かされています。

 「D:公差の正しい表現」では、設計者の意図を正しく伝えるために幾何公差を駆使する必要があります。位置度、輪郭度といったものも駆使する必要もあるでしょう。

寸法公差や幾何公差を考慮するタイミング

 幾何公差については、理解とその活用推進がまだまだ必要だと思います。公差設計に関する取り組みでは、実製品における部品製作の検証まで行いましたが、その後、うまく展開できたかというと、必ずしもそうではありませんでした。3D CADを用いた設計プロセスに公差設計を組み込むことが必ずしも適しているわけではないと考えたのです。開発設計から量産設計という工程ではなく、開発設計のみ、いわば一発勝負的な設計が行われていたことがその大きな要因だったと思います。

 トップダウン設計により設計を必要とする大まかな構想の下、加工点(仕事をする部分)より部品をモデリングし、アセンブリ構成を作ります。この際作られる3Dパーツに初めからは、寸法公差・幾何公差は設定されておらず、これらは3Dから2Dの部品図面に展開される際に、初めて付けられていました。

 出図直前、設計審査のデザインレビュー後、2D部品図に展開するという作業をした場合、2D部品図完成後に、そこで設定した寸法公差や幾何公差を元に公差解析を行ったとしましょう。その内容によって公差設計を差し戻すことは可能でしょうか?

 それは容易なことではありません。公差設計も設計審査の対象であり、レビューの時点で行うべきだという声も聞こえてきそうですが、短納期対応に追われる一品受注生産では、それは現実的ではありません。

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