“名刺サイズスパコン”「Parallella Board」を作った男の話人生最悪の時を乗り越えて(1/4 ページ)

“名刺サイズスパコン”こと「Parallella Board」のテクニカルカンファレンスが開催され、開発者のアンドレアス・オロフソン氏が来日した。5時間にも及んだ濃厚なイベントを紹介する。

» 2015年06月04日 07時00分 公開
[作倉瑞歩MONOist]

 米Adaptevaから発売されている「Parallella Board」(日本国内ではアールエスコンポーネンツが販売)。MONOistをご覧の方ならば注目している人も多いだろう。名刺サイズのボードに、制御用としてARM Coretex-A9ベースのXilinx製SoC FPGA「Zynq Z7000シリーズ」(デュアルコアARM、FPGA内蔵)と、Adaptevaの演算用アクセラレータ「Epiphany III」を搭載しており、Ubuntuなどを使用することで高速な並列処理プログラミングを行える“名刺サイズスパコン”だ。

 2015年5月30日に開催されたカンファレンス「Parallella Technical Conference in Tokyo」には、AdaptevaのCEOであり、Parallella Boardの開発者であるアンドレアス・オロフソン氏も来日。オロフソン氏は約1時間以上に渡ってParallellaを紹介するなど、非常に熱のこもったイベントとなった。ちなみに当日参加したのは約50人。実際にParallella Boardを持っている人はそれほど多くない様子だったが、その未来に興味があって集まってきた人たちだ。

photo Parallella Boardの開発者であるアンドレアス・オロフソン氏

 カンファレンスはまず、オロフソン氏のセッションからスタート。日本に来ることを楽しみにしていたというオロフソン氏は、全世界を回ってParallella Boardについて紹介している。来場者に購入している人が少ないことにちょっとガッカリしている様子だったが、「ぜひ買って楽しんでほしい」と付け加えることも忘れなかった。

パラレルの現在と未来

 オロフソン氏は「さまざまな企業が、並列処理に何百億ドルもの資金を投入している。そこに並列処理に未来があるからだ」と未来のコンピューティングは並列(パラレル)で行われることが主流になるだろうと語る。既存製品の中ではIBMの「Cell」が家庭用ゲーム機に導入されるなどある程度の実績を残したが、一般的にはならなかった。「普通のコンピュータ”にとって、並列処理は縁がないものだった」とも付け加える。

 そしてスライドに移り、“並列コンピューティングをやろうとして失敗した企業群”を紹介した。「そして中にはある程度の成功をして、会社を売却した企業も含まれているが、大半が失敗した」(オロフソン氏)。

並列コンピューティングに取り組んできた企業たち

 これらの企業の中には、軍事分野や医療分野で並列処理を使おうとしたものの、実現するに至らなかったところもある。こうした企業が失敗したのも、やろうとしたことが20年、30年早すぎたからだとオロフソン氏。「これまで誰も、“一般的な目的に利用できるパラレルマシーン”を作ることができなかった」。

並列コンピューティングに取り組んできた企業たち

 Analog DevicesでDSPやSoCの開発に10年以上携わってきたオロフソン氏が、Adaptevaを立ち上げたのが2008年のこと。同年にEpiphanyのシミュレーションモデルを完成させ、翌年の2009年にEpiphany-Iを開発。2010年にはEpiphany-IIと、Parallella Boardにも搭載されているEpiphany-IIIを完成させている。

 「Epiphany-IIIは2010年に発表しているが、65ナノメートルプロセスで製造されており、今となって10年前の技術。そこで2011年には64コアのEpiphany-IVを開発した。大量生産するためにはまだ資金が足りないので、出資を募っている状況だ」(オロフソン氏)。

「Epiphany」は2008年から開発を続けている
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