災害救助ロボットコンテスト、入賞チームが語るロボット開発の詳細DARPA Robotics Challenge 決勝リポート(後編)(1/3 ページ)

災害救助ロボットコンテスト「DARPA Robotics Challenge」で優勝した、韓国「TEAM KAIST」のロボットは何がスゴかったのか。競技の詳細をお伝えするとともに、大会後に開催されたワークショップで語られた、上位入賞チームによる開発の詳細をお伝えする。

» 2015年06月15日 00時00分 公開
[桃田健史MONOist]

初日、最有力候補がトップへ

 米国国防総省(ペンタゴン)が管轄する研究機関「Defense Advanced Research Projects Agency」(DARPA)が主催した災害救助ロボットコンテスト「DARPA Robotics Challenge(DRC)」の決勝(2015年6月5〜6日)は、下馬評通りとはいかなかった。

 各チームは1日1回、2日で2回、8つの課題に挑戦し、より高いポイントの方が実績として採用された。出場24チーム(うち日本からの1チームが棄権)のため、4機が並行して競技を行い、これを1日6ラウンド、2日間で12ラウンド行った(用意された課題については本稿前編を参照されたい)。

 初日の第1ラウンドを見て、少々がっかりした。日本から参加した「Aero」を含む全4チームが第1タスクの「クルマの運転」を放棄して、ロボット自らが移動する方式を取ったのだが、それらは途中で倒れる(転ぶ)ことが多く、取材するメディアや観客から「ロボットとしての完成度が低い。先行きが不安だ」という声が漏れた。

 だが、ラウンドが進み、強豪が登場すると場内の雰囲気は一変。的確にタスクをこなすロボットに会場内から大きな拍手と歓声が沸いた。特に注目を集めたのは、優勝候補のカーネギーメロン大学とMIT(マサチューセッツ工科大学)だ。両校は言わずと知れた、米東部の名門校。世界先端技術の研究開発拠点である。

photo ドア開けのタスクをこなすMITのATLAS

 両校はDARPAが2000年代に3回開催した自動運転車コンテストで上位を占めた。また今回のロボティクスチャレンジのチームスタッフも学生主体の研究発表などというレベルではなく、実業界での経験も豊富な教授陣が世界最新鋭の技術を具現化するイメージが強い。

 カーネギーメロン大学の「Tartan Rescue」はタスクに合わせて体型がさまざまに変化するロボットで、初日では唯一、全8タスクをこなした。時間は制限時間まで残り5分を切った55分15秒を記録し、トップに立った。

 これを追ったのが、伏兵のドイツ ボン大学の「NimbRo RESCUE」だった。小規模なチームで、ロボット自体もヒューマノイド型と比べると実にシンプルな造り。それでも、小型軽量の特性を生かし、着実にタスクをこなした。時間は34分という早業だった。ただし、同機はそもそもの設計上、2番目のタスクである“クルマからの降車”を想定していないため、最大7ポイントしか獲得できない。

photo ドイツ ボン大学の「NimbRo Rescue」 シンプルな構造を採用し、着実にタスクをこなした

 日本チームは苦戦を強いられた。東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻の稲葉・岡田研究室で構成される2チーム、さらには産業技術総合研究所(AIST)と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の連携チームなどはヒューマノイド型の二足歩行ロボットの技術では世界トップレベルとされ、日本メディアから大きな期待が寄せられており、タスクをこなす動き自体は洗練されているのだが、タスク間の移動に手間取る、または転倒するなど、効率的にポイントが稼げなかった。

 初日を通じて、参加チームのパフォーマンスに差が出た要因は大きく2つに分類されると感じた。

 1つはトライアルの経験だ。2013年12月にフロリダ州マイアミ郊外で行われたトライアルでは、今回設定された8つのタスクの多くが採用されていた。本番リハーサルの体験の有無は当然、本番の結果に影響する。

 もう1つは、ハードウェアの独自製作という点だ。アメリカから参加した12チーム中、強豪MITを含む6チームが、DARPAが米ロボットベンチャーのボストンダイナミクスに依頼して製作した汎用型ロボット「ATLAS」を使用した。ATLASはトライアルでトップ8に入ったチームにファイナルまで無償貸与の権利が与えられたこともあり、多くのチームが選択した。ハードウェアが確立していることで、開発リソースをソフトウェアに集中できたことは高いパフォーマンスにつながったのだろう。

 ちなみに、トライアルとファイナルで大きく違った条件に「無線化」がある。トライアルでは、ロボットへの電源供給と操作指示のデータ送信は有線で行われていたが、ファイナルでは、電源はバッテリーとなり、データ送信は競技場から約500メートル離れた各チームのガレージから無線で行われた。初日の前半、無線通信が途絶えるトラブルが発生したが、約15分後に復旧し、最終ラウンドまでトラブルは再発しなかった。

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