3Dプリンタがなくなる日3Dプリンタの可能性を探る(9)(1/2 ページ)

3Dプリンタは、3Dプリンタと呼ばれなくなったときに、本当に身近なものになるのかもしれない。FABカルチャーを発信するスタジオを運営する神田沙織氏が、自身の活動を紹介しながら家庭向け3Dプリンタを取り巻く現状について語った。

» 2015年06月29日 10時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 2015年6月11日、“ものづくり系女子”の神田沙織氏によるセミナー「見えないアイデアをプリントする」(d-labo ミッドタウン主催)が行われた。

 神田氏は、小型3DプリンタなどのパーソナルFABマシンを設置する「Little Machine Studio」(以下、LMS)の活動や、大学での授業の様子を紹介。デジタルファブリケーションツールが可能にする表現について語った。

3Dプリンタ界の「ルンバ」は?

 まず、神田氏は連続セミナーの前回で佐々木博氏が紹介した、1900年ごろフランスで発表された「100年後の未来予測」について取り上げ持論を述べた。この中では、2000年には全家庭に掃除ロボットが普及すると予測されているという。実際、2002年に「ルンバ」(米iRobot製)が登場し、全家庭ではないにしろ徐々に使われつつある。市場調査会社のシード・プランニングの予測によると、2015年の国内の掃除ロボットの予測販売台数は60万台で、200人に1人が購入する計算だ。2020年の予測販売台数は110万台になるという。

 一方、個人向けの3Dプリンタは2015年に9000台、2016年には1万5000台販売されると予測されている。普及台数は掃除ロボットとは比べものにならない。また、個人向けといっても企業や大学などで複数台購入される場合もある。

3Dプリンタの市場規模 「3Dプリンタの市場規模」についてのスライド(セミナーより)

 ルンバは、ロボットの要素技術に掃除という用途を掛け合わせてルンバになった。「では、3Dプリンタのルンバは何か?」と神田氏。3Dプリンタは、材料を積み上げるという要素技術であり、明確な使い道がない。例えば、調理を掛け合わせてフードプリンタ、洋裁を掛け合わせてドレスメーカー、福祉を掛け合わせて補助具メーカーといった「明確な使い道が必要なのではないか」と神田氏は指摘する。

 神田氏自身が初めて就職したのは産業向け3Dプリンタを販売する企業だった。そこではじめて3Dプリンタに触れるとともに、3Dプリンタによるネットプリントサービスを立ち上げるなど、3Dプリンタの普及活動に関わってきた。2015年3月からはシェアアパート、シェアオフィス、シェアスペースが一体となった「the c」(東京都千代田区)で、個人向け3DプリンタをはじめとするパーソナルFABマシンを集めたファブスタジオ(LMS)を運営している。

“ものづくり系女子”の神田沙織氏 “ものづくり系女子”の神田沙織氏がセミナー「見えないアイデアをプリントする」に登壇

 LMSで実施したイベントの1つが、金曜の夜に連続で開催した「FabFriday」だ。これは大分県の「FabLab Oita」で開催されているイベントを参考にしたもので、モノづくりができる人もそうでない人も、関心のある人が集まってモノづくりをしてみようというイベントだ。3Dプリンタを使ってみたいと思っても、何を作るか思い付かなかったり、どんなスキルが必要なのか分からなかったりすることもある。そこで、アイデアを出し合ったり、デザインやモデリングなどそれぞれのスキルを持ち寄ったりしてモノを作っていくという。

 LMSでは、まず大まかな方向性として、the cに必要そうなもの、あったら便利なものを考えて作っていこうということになった。次に、the cの中を見て回り、作るものおよび製造方法を決めて作品を作った。

 神田氏は、大分県立芸術文化短期大学の非常勤講師としても活動。同セミナーでは、プロダクトデザインの学科で、大学が「デジタルモノづくり機器」と呼んでいる3Dプリンタなどを活用した新しいプロダクトデザインの手法を講義した様子も紹介した。

 講義のテーマは「Product for 1000」。つまり、1000人のためのモノづくりだ。1000という数字は、大量生産でも個人のためのものでもない、“その間”を表現した数字である。万人受けするものではない、自分を含めた一部の人がほしいものを作るという設定だ。また、1000という数字は、企画、デザイン、試作、設計・製作、流通、販売までを1人または小さなチームでカバーできる範囲という意味でもある。

Product for 1000 1000人のためのモノづくり「Product for 1000」についてのスライド(セミナーより)

 授業は5日間の短期集中型で、1日目にアイデア出し、2日目に設計、3日目に3Dプリンタで出力してアイデアの修正、4日目に最終案をWebサイトに掲載し、5日目に発表というハードなスケジュールだったそうだ。


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