移植細胞を表面に置く新たな手法で、聴神経の機能再生に成功医療技術ニュース

京都大学は、新しい細胞移植法を開発し、音を聞き取るための聴神経の機能を再生させることに成功したと発表した。細胞を神経表面に置く表面移植法で、細胞が瘢痕(はんこん)組織を利用して神経を再生した。

» 2015年07月02日 08時00分 公開
[MONOist]

 京都大学は2015年6月16日、同大大学院医学研究科の関谷徹治研究生らの研究グループが、新しい細胞移植法を開発し、音を聞き取るための聴神経の機能を再生させることに成功したと発表した。同成果は、同日に米科学アカデミー紀要に掲載された。

 神経細胞を送り込み、失われた神経機能を回復させようとする「細胞移植治療」では、移植された細胞の大部分が短期間の内に死んでしまうという問題がある。これは、中枢神経細胞が死んでいくときにできる「瘢痕組織」が硬いことから、移植された細胞が生き延びることができないためだと考えられてきた。

 同研究グループではまず、人の病気で見られる瘢痕組織をラットの聴覚神経系で再現した、聴神経瘢痕化モデルを作製。これに細胞を表面に置く「表面移植法」を行ったところ、表面移植された細胞は、瘢痕化した神経内に次々と入り込み、瘢痕組織を利用しながら形を変えつつ、長期間にわたって生き続けた。3カ月後にラットに音を聞かせると、聴神経の機能が改善していることが判明。顕微鏡による観察でも、移植された細胞がシナプスを介して元の神経と連結していることが確認されたという。

 同成果は、「中枢神経内にできた瘢痕組織は、神経再生にとって有害である」という従来の定説を覆すものでもあり、大脳や脊髄への細胞移植法に関しても再考を促すものになるという。

 また、表面移植法は、神経系に新たな傷を作ることなく細胞移植ができるため、今後は筋萎縮性側索硬化症(ALS)やポリオの疾患モデルを用いて検討していくという。さらに今回の実験では、長く伸びた神経突起が中枢神経内に入って行く現象も同時に観察されたため、中枢神経のより深い部位にある神経変性に対しても表面移植法による細胞移植実験を試み、その可能性について検討する予定だ。

photo 移植細胞は、最終的に有毛細胞と蝸牛神経核細胞とシナプスを介して連結する

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