ロボットによる“殺人”は、工場の“自律化”に危機をもたらすか産業用ロボット(2/2 ページ)

» 2015年07月07日 08時00分 公開
[三島一孝MONOist]
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産業用ロボット事故、専門家はどう見る?

 日本ロボット工業会 システムエンジニアリング部会長の小平紀生氏は「今回の問題の本質は、産業用ロボットが良い悪いや、知能化の問題ではなく、生産機械の安全管理の問題だ」と強調する。

 産業用ロボットは基本的には、プログラムされた動作を高精度に繰り返すということがメインの役割となる。そのため、動線上に人間が立ち入れば、衝突し被害が発生することになる。そのため、動線上に立ちいらないように柵を設置するか、なんらかの安全措置を講じることが義務付けられている。今回の事故は、技術者がロボットを設置している際に発生したとのことだが、「人身事故は、このような設置中、改造中、保守中、トラブル対策中に起きることがほぼ100%である」と小平氏は述べる。

 さらに、これらの安全措置が求められる産業用ロボットにおいてでも事故があったということは「作業管理上も技術対策上も不具合があったということ。作業者の不注意はあったかもしれないが、それを踏まえた上で阻止できなかったのはシステム上の不具合だ」と安全管理面での問題を指摘している。

人間と協調作業を行うロボット

 産業用ロボット業界では最近、規制緩和などが進んでいることもあり、安全機能を持ち、人と協調して働けるロボットのリリースが相次いでいる。これらのロボットは、「軽量で人がぶつかっても衝撃が少ない」や「ソフトケースで衝突の衝撃が少ない」「ぶつかれば自動で止まる機能が付いている」「ある部分を触ればすぐに止まるようになっている」など、さまざまな安全機能が備えられている。また、画像認識技術やセンシング技術を使い、人が作業範囲に入ったことを認知でき、止められる機能なども進歩が進んでいる。

photo 人間と協調作業を行うロボットは数多く登場している。写真はKUKAのLBR iiwaがビールを提供するデモ

 しかし、これらの技術的な進化についても「あくまでも完全な安全を求めるための1つの側面にすぎない」と小平氏は語る。人間協調型のロボットだからといって、事故が起こり得ないとはいえないというわけだ。

 「安全対策上はロボットの知能が果たす役割はかなり大きいが、何らかの技術的なブレークスル―があれば安全なロボットができる、というのは人間のおごりだといえる。安全とは、製品としての技術、作業管理、規格や規制など、これらをロボットの使用目的に応じたバランスの良い運用の上に成り立つものだ」と小平氏は強調している。

 産業用ロボットであれ、製造装置であれ、製造現場には事故は起こり得るものだ。自律化が進む工場であっても「安全」に対しては、機械やシステムだけでなく、規格や規制、人間の運用面での管理など、さまざまな問題の組み合わせで成り立っていることには変わりはなく、継続的な取り組みが必要であるといえる。

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