デジタルツインを実現するCAEの真価

「エクストレイル ハイブリッド」のモーターシャフトに成形シミュレーションを活用CAEイベントリポート(1/2 ページ)

日産自動車ではフローフォーミングで成形されたハイブリッド車のローターシャフトに対して、開発の効率化のため、成形シミュレーションの適用を検討した。ベンチマークテストで解析と実際の加工物との一致を確認できたという。

» 2015年07月09日 10時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 東京コンファレンスセンター・品川で2015年6月4日にエムエスシーソフトウェア主催による「2015 Users Conference」が開催された。同イベントでは日産自動車 パワートレイン生産技術本部 パワートレイン技術開発試作部 商品開発試作グループ 主査の田口直人氏が「一気通貫の開発プロセスを支えるCAE技術」のタイトルで講演した。

 田口氏のグループではサスペンションを中心に技術開発を行っている。ただ初期の開発だけではなく、部品設計からサスペンションモジュールとして組み立てるまでに携わっており、生産要件や生産ラインの立ち上げにまでも一気通貫で携わる体制となっている。

 同グループは、最初はプレス成形関連の部署だったという。その後、溶接グループと合流することになった。さらにフロントローディングを推進するため、開発部隊で設計手法を学び、生産要件を織り込んだ形での設計を行うようになった。さらに別組織だった試作、疲労や強度などの試験グループも合流し、サスペンション以外のアクセルなども扱うようになったという。こういった取り組みにより、技術の蓄積とともに、コストダウンも一層進んでいるとのことだ。

一気通貫の業務プロセス体制を構築

 先行開発では実物がないためデジタルな業務になるが、強度や耐久性なども考えながら設計していく。一方コストも検討する必要があり、成形や冶具の検討、溶接、生産ラインなどのさまざまな工程をデジタルで検討するという。その中で今回、成形シミュレーションツールをフローフォーミングの工程に適用できないか、検討を実施した。

 フローフォーミングは塑(そ)性加工成形の一種である。材料をマンドレルで固定して、ろくろのように材料を回転させながら、ローラーを当てて形を作っていく。同社では、AT用クラッチドラムなどにフローフォーミングを適用した例がある。なおこの時は手探りの状態で、ローラーによる裂開の過程の成形条件を求めるのに苦労し、開発に約4年かかったという。

ハイブリッド車モーターの部品を検証

 2015年5月に発売された中型SUVのハイブリッド車「エクストレイル ハイブリッド」に搭載されたFF向けハイブリッドユニットは、1つのモーターと2つのクラッチから構成される。モーターを1つにすることにより構成部品を減らし、軽量化、コンパクト化を実現している(図)。

エクストレイル ハイブリッドに搭載されるFFハイブリッドユニット

 このモーターの内部部品であるローターシャフトは、フローフォーミングを適用する前は、3つに分けて作った部品を後で一体化していた。鍛造した3部品それぞれに機械加工を施し、電子ビームで溶接していたという。FF向けハイブリッドユニットを開発するにあたり、フローフォーミングで一体化して成形することで、鍛造品と比べてコストを3割ほど削減できたという。

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