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» 2015年07月09日 12時00分 UPDATE

5分でわかる最新キーワード解説:地下街でも居場所が分かる「地磁気データ屋内測位」とは

スマートデバイスの普及やO2Oへの期待もあり、高精度な位置情報測位への需要は高まっています。地下街や建物内でも利用でき、高精度な測位が可能な「地磁気データ屋内測位」は機器新設を必要としないこともあり、活用が期待されています。

[キーマンズネット]

 今回のテーマは、GPS電波が届かない地下街や建物内でもモバイル端末で自分の位置が高精度で分かる「地磁気データ屋内測位」技術。測位用の機器新設が不要なので、将来の広い応用が期待できます。

「地磁気データ屋内測位」技術とは?

 モバイル端末に搭載されたセンサーと専用アプリにより、場所によって変化する地磁気データを計測し、屋内地図と地磁気データを管理するサーバのデータベースと照合して、正確な現在位置計測や移動履歴記録を実現する技術。2014年末?2015年1月にかけて、野村総合研究所(以下NRI)が三菱地所の協力のもと、東京の丸の内地域内のビル内商業フロアの一部と地下で実証実験を行い、誤差2m程度という高精度なリアルタイム測位と、測位ログからの人の動き(動線)の可視化に成功した。

photo 上:スマートフォンによるマップナビゲーション、左下:対象エリアを実際に歩いた動線(実際の歩行経路=青線)、右下:測位ログを可視化した動線(地磁気測位データをプロットした経路=緑線)(資料提供:NRI)
  • GPSやiBeaconなどと違うのはココ!

 測位技術として誰でも知っているのがGPS。GPSの組み込みが前提のカーナビはもちろんのこと、GPS搭載スマートフォンで歩きながら地図ナビゲーションを利用している方も多いだろう。そんな人なら、便利さと同時に測位精度はかなりアバウトなこともご存知のはず。自動車での利用では十分でも、込み入った路地を歩行中には最短行程をガイドしてくれず、かえって遠回りをしてしまうこともある。GPSの誤差は民生用では少なくとも10mは覚悟しなくてはならず、携帯基地局やWi-Fiアクセスポイント設置位置情報を利用して補正する方法も、よほど条件が揃わないと精度が上がらない。

 また歩行中の測位は自動車の測位よりもずっと難しい。歩く速度は車ほど一定しておらず、横を向いたり後ろを向いたり、時にはUターンしてみたりと行動パターンが複雑で、端末を保持する位置も、ポケットの中から胸の前、手を下げて逆さにしたり、カバンに入っていたりとさまざまだ。しかも必要なマップ情報は、店舗の入口やトイレの場所はどこかといった、より詳細なものが求められる。地下のショッピングモールなどでは曲がり角の位置が少しずれてもガイドにならないだろう。

 一方、スマートデバイスユーザーは増える一方で、GPSやWi-Fi位置情報などの他の新しい屋内測位技術が強く求められるようになっている。GPS電波が届かないところでの測位、よりきめ細かい測位には、これまで次のような技術が提案・検討され、一部が実用化している。

  • 主な屋内・屋外測位技術

 Wi-Fi測位 複数の無線LANアクセスポイントからの電波強度や到達時間から位置を測定。10〜100m程度の誤差がある。

 携帯電話基地局測位 携帯電話基地局からの所在確認信号に対する応答の方角と遅延時間から測位する。Wi-Fi測位よりも不正確な場合がある。

 音波測位 等間隔に備えられた指向性の強い超音波発信機(スピーカー)からの信号を端末のマイクが受信して測位する。

 Bluetooth測位 Bluetoothを使った発信装置(ビーコン)からの電波を使い、位置測位を行う。iBeaconを使った位置測位が実用段階にある。iBeaconの場合は、発信装置周辺のエリアに端末が進入した時にスマートデバイスの関連アプリが自動起動し、例えば近くの店舗のクーポン情報やセール情報を表示するような、O2Oマーケティングへの活用が可能。マップによるナビゲーションとは少し異なる利用目的で、発信装置周辺の狭いエリア内(2〜50m)でのピンポイントでの利用に向く。

 可視光測位 LEDなどの照明装置を人間が感じられない早さで点滅させることで信号を送り、測位する。

 カメラ画像測位 カメラの撮像と、あらかじめデータベース化しておいた周囲の画像情報とをマッチング処理して測位する。奥行きセンサーと組み合わせ、3D空間情報化して、測位精度を高める研究も進められている(関連するキーワードの項参照)。

 気圧測位 気圧センサーから検知できる高低差の情報を使う。特定ルートの高低差をあらかじめデータベース化することで、マッチング処理して測位する。

 PDR(歩行者自律航法) 加速度、ジャイロ、地磁気などのセンサーを使い、移動の方向と速度を推計して測位する。他の方法で測位開始ポイントを決め、そこからの相対的な移動方向や距離を求める(関連するキーワードの項参照)。

 IMES(Indoor MEssaging System) GPS同等の信号を発信する専用機器からの信号をもとに屋内の測位を行う。もともとは準天頂衛星システムの枠組みから発案され、検討が進められている。

  • 地磁気データ屋内測位の仕組み

 地磁気データ屋内測位の際立った特徴は、上記の各種測位技術と違って、発信装置がいらないことだ。利用するのは地磁気なので、いわば地球そのものが発信装置ともいえるが、実際には地磁気の位置によるわずかな違いを利用している。実は地磁気は鉄筋などの金属の存在によって、磁気の強さと方向が、位置によってに微妙に違うのだ。

 ある地点での地磁気の状態を記録し、次の地点に移動してまた記録するという操作を繰り返すと、屋内の地磁気特性のマップが出来上がる。それをデータベースに取り込んでおき、スマートフォンなどが搭載している地磁気センサー(「コンパス」アプリなどで利用しているもの)がとらえた地磁気情報とマッチングを行うと、その磁気特性に最も近い場所(絶対位置)が分かるという仕組みだ。厳密に言えば離れていても同じ磁気特性の地点もあるため、測位には移動による連続的な値変化を利用している。

photo 図2 位置ごとの地磁気特性をマッピング(円の色 :x,y,z各軸の磁気

※円の大きさ :磁気の大きさ、※矢印の向き :磁気の方向)(資料提供:NRI)

 この仕組みなら、地磁気センサー搭載端末は何でも利用できることになり、特別な測位機器も必要ない。上述の各種技術のうち、測定用の発信機も端末側の測位機器も不要なのはPDRだけだ。しかしPDRはある地点から次の地点までの相対位置を図るものなので役割が違う。地磁気データ屋内測位技術の場合は、最初に地磁気データを測定して、マップ情報に紐付けて管理する手間がかかるが、それさえできてしまえば機器メンテナンスの必要もなく、運用コストは他よりも低くなり、屋内ナビゲーションシステム実現について技術的にも難しいところはなくなる。

 なお、他の技術で必要となる発信装置の設置にはその区画の所有者の同意が必要だが、地下街などでは所有権が複雑になっていて、エリア全体をカバーできるまで設置を進めるのに時間がかかること課題。その労力がいらないところも地磁気データ屋内測位技術のポイントだ。

 測位情報は管理サーバに蓄積され、移動や滞留の状況把握(動線把握など)が可能であり、企業のマーケティングに資する情報が得られる一方、アプリを利用するユーザーは屋内のナビゲーションに加え、O2Oマーケティングによるクーポンや割引、情報配信などのサービスを利用することができるため、顧客満足度向上や店舗への集客に役立てることも期待できよう。

実証実験の結果と活用事例

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