学生フォーミュラカーにバスケットゴール、人間も!? トポロジー最適化やってみた!学生による2事例(1/2 ページ)

構想設計においてトポロジー最適化を活用する例が増えている。学生フォーミュラや美大生が構想設計ツール「solidThinking Inspire」を使った事例を紹介する。

» 2015年07月27日 10時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 アルテアエンジニアリングは2015年7月7、8日に「2015 Japan Altair Technology Conference」を開催した。その中から、学生が構想設計ソフトウェア「solidThinking Inspire」(以下Inspire)を機械設計や工業デザインに活用した例を紹介する。Inspireは荷重を条件として与え、質量を最小化したり剛性を最大化したりした形状を生成する、トポロジー最適化ツールである。トポロジー最適化では、設計する領域から不要な材料を取り除いていくことで最適化を行う。従来にはなかったような形状のアイデアを得られるとともに、3Dプリンタの加工法とも相性がよいため注目されている手法だ。

設計ノウハウの蓄積が難しい

 全日本学生フォーミュラ大会のレーシングカーにInspireを活用したのが、神戸大学の学生フォーミュラチーム「FORTEK」だ。FORTEKは2003年に神戸大学工学部機械工学科の学生を中心に設立され、その翌年から毎年大会に参戦しているチームである。学生フォーミュラはマシン開発に割ける期間が短く、設計を十分に突き詰められないことが同チームの課題だった。

2014年度プロジェクトリーダーの中尾亮太氏(右)と2014年度サブリーダー・2013年度プロジェクトリーダーの船橋駿斗氏

 学生フォーミュラでは、マシンの開発コンセプトを決めて、それに基づき各パーツを設計していく。2014年度のチームのコンセプトは「Fun to Ride」で、高い性能と操作性の両立を目指した設計を進めていた。だが「1年間で企画から設計、製作、評価までの全てを行わなければならないため、設計に割ける時間が制限される。また学部生が主体のため、メンバーの入れ替わりが激しく、設計ノウハウの継承が難しかった」と2014年度プロジェクトリーダーの中尾亮太氏は述べた。これらの問題をカバーしながらマシン性能を向上させるために、Inspireを活用した部品の性能改善に取り組んだという。

マシンのコンセプト(左下がブレーキペダル)

 今回Inspireを適用したのはブレーキペダルだ。ドライバーがペダルを踏むと油圧式で力が伝達される。このブレーキペダルに要求される性能は強度、剛性、重量の3つになる。強度についてはマシンの安全性、信頼性に大きくかかわるため、レギュレーションで厳しく規定されている。剛性についてはペダルを踏んだ際の感覚(乗り心地)に影響する。重量については、ペダルは重心から離れた位置に搭載されるため、旋回などの運動性能に大きな影響を及ぼすと考えられる。だが2013年度は強度要求を満たすことに精いっぱいで、重量や剛性が犠牲となっていた。そこでこれらをバランスよく開発するために、Inspireを活用することにした。

変形量と重量の削減に成功

 解析では、レギュレーションで規定されている2000Nの力が一方向からペダルに掛かった際の変形量を、前年度より50%減らすことを目標にした。

 まずInspireと有限要素解析(FEA)を併用して剛性を最大にするように設計、また万が一Inspireをうまく活用できなかった場合に備え、FEAのみを利用した従来通りの手法も使用した。加えて2013年度のFEAのみを用いたモデル、2014年度の解析前のモデルも用意し、合計4パターンについて比較した(下図)。

それぞれの最適化による変形量および重量の比較
2014年度のフォーミュラカーで実際に搭載されたブレーキペダル

 その結果、InspireとFEAの併用によって、前年度よりも変形量を50%、重量を63%削減できた。また形状決定に要した時間も、2013年度は14日だったところ、2014年度は3日に短縮できた。

 2015年度は、さらにフレーム後端部にもInspireを適用する予定だ。2014年度は単一方向からの入力における剛性の最大化を図ったが、次は複数方向からの入力における剛性の最大化を行う。2015年9月1〜5日に開催される第13回大会で、この部品を搭載したマシンが見られる。

今回の大会ではフレーム後端部にトポロジー最適化を活用する予定だ
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