「電機業界の失敗を繰り返してはならない」――経済産業省 西垣氏製造マネジメント インタビュー(3/3 ページ)

» 2015年07月29日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]
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日本のモノづくりの強みを共有する

MONOist IoTによる製造ビジネス変革WGでは、どういう方向性の活動を行っていくのですか。

西垣氏 具体的にはWG内で話し合いながら進めていく話だが、まずは将来の製造業の姿やそれに向けて解決しなければならない技術課題など、さまざまな考えや問題点などを共有する基盤としていくことが重要になる。

 インダストリー4.0が描いているのは、IoTなどを活用し関連するさまざまなシステムを連携させた自律的な工場だ。これを実現するためには、まずは「つながる」ということを実現する必要がある。そのためには「つながるメリット」が見えるようにならなければならない。現状では、設計開発工程と製造工程が分断されていたり、工場内の通信プロトコル、制御系やIT系システムの連携不足などがあったりし、「つながる」という状況には至っていない工場が多い。

 さらに、データ活用による付加価値の創出も考えなければならない。IoTが進めば、ビジネスモデルそのものが変わり、製造業であってもデータを中心にした新たなビジネスを生み出せる可能性がある。そのためには現在の企業内のデータ活用の遅れであったり、個別最適に陥っていたりする状況を改善していかなければならない。さらにこれらを1社だけで行うのではなく、他社も含めて連携していかなければならない。

 これらを解決するには、協調領域と競争領域を明確化していく必要がある。それぞれが話し合える基盤としてIoTによる製造ビジネス変革WGを活用することで、協調できる領域を明確化し、それにより、日本のモノづくりの強みを共有し、世界の動きに対応していけるようになればよいと考えている。

日本独自の標準化を行う可能性

MONOist 日本独自規格を標準化するなど、インダストリー4.0などへの動きに対抗していく考えはありますか。

西垣氏 ドイツでは、インダストリー4.0を具体化するために4月に「インダストリー4.0実践戦略」が公表され、リファレンスアーキテクチャモデルとなる「Reference Architecture Model Industrie 4.0(RAMI4.0)」なども公開されている※5)。ただ、これらのモデルは、IEC(国際電気標準会議)のSMB/SG8など、国際標準化の舞台で話し合いが開始されている。これらの動きに対抗する新たな団体や規格を一から作り上げることは既に現実的ではない。国際競争の面から考えた場合、この標準化の舞台に立ち、日本の不利にならないような標準化を進めていく必要があると考えている。その意味でも日本としての協調領域と競争領域を考えていく必要があるだろう。

※5)関連記事:インダストリー4.0がいよいよ具体化、ドイツで「実践戦略」が公開

製造業にも求められるICT人材強化

photo 2015年版ものづくり白書(クリックでWebサイトへ)

MONOist 製造業革新の動きにおいて課題として感じていることはありますか。

西垣氏 2015年の「ものづくり白書」でも取り上げたが、IoTやビッグデータの新たなビジネスサイクルが生まれる中、ITやデータの利活用は今後あらゆる産業において必須のものとなる。ただ、日系企業は全体的にデータ活用やIT活用への意識や投資レベルが低いということがいえる。

 例えば、IT技術者数で見た場合、日本は約100万人だが、米国は約330万人と3倍以上となっている。特にこの中でもユーザー企業が抱えるIT技術者の比率は日本の場合は24.8%で大半がITサービス企業が抱える技術者だということがいえるが、米国の場合はこの比率が逆転しユーザー企業のIT技術者が71.5%を占めている。企業においてITを活用した革新が起こりにくいという状況が生まれているといえる。

 当然1つの技術、1つの製品の価値が変わらない領域もあるが、今後ICTやデータ活用がモノづくりに入ってきた時に重要になるのは「システムとしてどういう価値を生み出すか」という点になる。全体最適の視点に立ち、どこで勝負するのかという点が重要になって来るだろう。


ITmedia Virtual EXPO 2015 秋 に経済産業省 西垣氏が登場! :9月8日〜9月30日まで開催!

特別セッション『製造業のデジタル化に向けた課題――欧米の製造業革新にどう立ち向かうべきか』

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経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室 西垣淳子 氏

ドイツのインダストリー4.0や米国のインダストリアルインターネットコンソーシアムなど、IoT(モノのインターネット)による製造業革新の動きが加速している。その中で日本の製造業はどのように勝ち残っていくべきか。経済産業省としての現状の問題認識を説明するとともに、新たに日本における協調基盤として立ち上げた「ロボット革命イニシアティブ協議会」のワーキンググループについて紹介する。


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