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» 2015年09月15日 08時00分 UPDATE

生産管理の世界共通言語「APICS」とは(1):「グローバル最適地生産」実現に不可欠な“標準化”と“共通言語” (1/5)

生産の「グローバル化」が叫ばれてから久しいが、工場進出はできても多くの企業が成果を出すのに苦労している。苦労の要因の1つにコミュニケーションの問題があるが、実は、工場を運営しサプライチェーンを管理する“世界共通言語”が存在する。「APICS」だ。本稿ではAPICSとは何か、またどう活用できるのかということを専門家が解説していく。

[高井英造/日本生産性本部 APICS日本代表部 顧問,MONOist]

 「グローバル化」が叫ばれてから久しいが、今ではほとんどの企業がサプライチェーンを通じて海外につながる時代になっている。そのため、企業においても、展開する製品やサービスについても、各個人レベルで見ても、「グローバル化への対応」が重要になってきている。では、グローバル化によって求められる要件にはどういうものがあるだろうか。筆者は、サービスや製品については「グローバル市場に対応した標準化」、個人については「共通言語によるコミュニケーション能力」が必要になると考えている。

 筆者がたずさわっているサプライチェーンマネジメント(SCM)では、効率的な運用を実現するためには、まずは世界中のどこでも通用する世界標準の業務知識、いわゆる“世界の共通言語”が必要となることは言うまでもないだろう。本連載では、サプライチェーン分野における用語や知識体系の標準化とそれに基づく教育と世界共通の資格制度を推進し、既に同領域における“世界共通言語”と見られつつある、米国の非営利団体「APICS」と「APICS-SCC」の活動について紹介する。さらに、日本における資格の意味などについて、実務的な経験を持つ専門の方々から解説していただく。

製造業における「共通言語」の価値

 さて、「共通言語」と言うと、すぐに英語だと思われがちだ。しかし、一般的な言語の力以上に求められるのが、それぞれの分野における世界的な標準用語とその定義であることは忘れられがちである。生産管理にしてもサプライチェーンマネジメントにしても、日本で使われている「一見英語風な言葉」が実は和製英語だったりすることはよくある。また、海外での一般的な言い方が、日本では全くと言っていいほど使われていなかったりする例も多い。

 実は日本の企業同士でも意味が通じなかったり、誤解していたりすることがある。さらに同じ企業の中でも部門によって意味するところが違うこともある。従って、サプライチェーンマネジメントを推進していく上では、社内外を問わず、組織間で共通な知識体系を保有していることが必要だ。そして、共通の知識体系や共通用語を基盤としていかなければならない。

 製造業においては、「カイゼン」や「カンバン」といった日本語由来の言葉が「KAIZEN」や「KANBAN」として世界的に使われている。しかし、その意味するところをあらためて聞かれると、なまじ親しんでいるだけに、どう説明したものか迷うことはないだろうか。実は筆者も「Kaizen Blitz※1)」のやり方を説明してほしいと言われ、何を聞かれているのか分からなかったことがある。

※1)「Kaizen Blitz」(APICS Dictionaryの定義): A rapid improvement of a limited process area, for example, a production cell. Part of the improvement team consists of workers in that area. The objectives are to use innovative thinking to eliminate non-value-added work and to immediately implement the changes within a week or less. Ownership of the improvement by the area work team and the development of the team’s problem-solving skills are additional benefits. See: kaizen event.

 ここ数年、エール大学のMBA学生の製造現場見学をアレンジし日本を代表する企業を回る取り組みを行っている。毎年見学前のレクチャー時には「トヨタの5S(整理、整頓、清潔、清掃、しつけ)※2)」の話をしているが、そもそもが「整理・清潔・整頓」を小学生時代から教室掃除や給食当番などを通して実践させられてきたことがない海外の人たちには、前提条件が違い過ぎて話が通じない場合が多い。「トヨタはこの日本人が学校で習うような習慣を工場でも実践しようと言ったことが革新的であったのであり、それを工場のために発明したことではない……」というところから話さなければ理解してもらえない。用語というものは、歴史や社会的慣習を含めて理解しなければ本当に理解したといえないのだ。しかし、日常を振り返ってみると、単純に言い換えて安心していることが多いのではないだろうか。

※2)関連記事:ムダを避ける「5S運動」(RPGクリアに欠かせないアイテム管理と在庫管理)

 この5Sのように、日本企業が磨いてきた独自の仕事のやり方や商習慣は、先人のノウハウやコツが詰まった財産ともいえる。この日本独特の財産を”強み”として企業の競争力として生かすだけでなく、世界の産業界に貢献する手段としても大切にするべきであろう。そのためには、世界の標準を知ることで、海外との「距離感」をつかんで、そこから世界標準に「日本発」を取り込ませることから始めなければならない。

 トーマス・フリードマンが「フラット化する世界」を書いて10年になるが、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)やインダストリー4.0※3)の進展は、一層のフラット化をもたらすことになる。否応なくグローバル基準に合わせて行かなくてはならない時代なのである。外の世界を意識しない独自技術の洗練性を誇るだけでは自己満足の世界である。仕事の進め方や議論の内容についても、いわゆるガラパゴス化をもたらしているということを意識しなければいけない。

※3)関連記事:ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?

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