ドイツ自動車メーカーがプラグインハイブリッド車を大量投入し始めた4つの理由和田憲一郎の電動化新時代!(16)(3/4 ページ)

» 2015年09月18日 10時00分 公開

(2)最大市場である中国での維持・拡大

 将来の市場をどう読んでいるかも重要だ。ドイツ自動車メーカーの経営陣は、欧米のみならずワールドワイドで市場を分析し、どこの市場で今後も勝ち続けるかを検討したであろう。現在の自動車市場を見ると、2014年の販売実績では、中国が2350万台、米国が1700万台、欧州が1200万台、日本が500万台、中国を除く東南アジア諸国が330万台などとなっている。ダントツの最大市場は中国だ。2015年の中国市場は、景気低迷によって自動車販売が芳しくない。しかし、まだまだクルマの保有者は100人当たりに1台と少なく、2020年には3000万台まで拡大すると予想されている。

 その中国市場では、2014年のドイツ自動車メーカーの乗用車シェアは約20%(約470万台強)と、地場の民族系の38%についで2番目に高い。このように、ドイツ自動車メーカーは、中国において確固たるポジションを得ている。

 なお、2014年の日系自動車メーカーの乗用車シェアは、全メーカー合わせて16%である。筆者も度々中国に行く機会があるが、上海などの大都市では、日本車の影が薄い。高級車が好まれる大都市部では、感覚的でしかないが、10台に1台しか日本車は走っていないように見受けられる。

 このように確固たるポジションを占めるドイツ自動車メーカーであるが、将来も盤石であろうか。常識的に見て、将来も引き続きこの世界最大の市場において、同等のポジションを得たいと思うハズである。

 しかし、中国ではPM2.5をはじめとする環境問題が深刻になっている。そして、その矛先はどうしてもCO2排出量が多い大型車、高級車に向かってしまう。高級車が多いドイツ自動車メーカーは、これらの市場からの不満に応えるため、いち早くPHEV化に舵を切ったと言えないだろうか。

 もう1つの理由が、今後導入が予想される中国版ZEV規制への準備である。中国は、米国カリフォルニア州で実施されているZEV規制を参考として同様の規制を検討している。ドイツ自動車メーカーはこれを察知し、先取りして導入しようとしているのではないだろうか。

(3)政治的影響力が強い中国との関係強化

 3番目の想定は中国特有の事情である。それは政治・党による影響力が強く、いつなんどき、政治的要因で変動してしまうかもしれないという不安である。そのような影響を製造分野でできる限り少なくし、関係を強化するため、インダストリー4.0を有効活用したとはいえないだろうか。

 ご承知の通り、ドイツ首相のメルケル氏は、年に幾度も中国を訪問している。その際、自らが押し進めるインダストリー4.0を紹介したことは類推するまでもない。その結果なのか、2015年5月19日、中国国務院は「中国製造2025」と銘打って、IoTを活用した製造力強化策を公表した。中身は極めてインダストリー4.0と類似しており、見方によっては、中国版インダストリー4.0とも言える。ドイツは、このように中国に取り入ることで、製造分野で補完関係を築こうとしているのではないか。

ドイツ自動車メーカーと中国自動車メーカー間の国家戦略レベルでの連携 ドイツ自動車メーカーと中国自動車メーカー間の国家戦略レベルでの連携(クリックで拡大)

 さらに、ここからは想像の域を出ないが、ドイツと中国の蜜月を考えると、インダストリー4.0と中国製造2025のごとく、PHEVとEVに関して、ドイツが高級車と中級車、中国が中級車と廉価車というようにすみ分けを考え、覇権を握ろうと考えたとはいえないだろうか。この考え方は、中国にとどまらず、欧米、さらには日本にも大きな影響を及ぼすこととなる。

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