日本自動車業界はフランクフルトショーの新展示「New Mobility World」を見よフランクフルトモーターショー2015リポート(1/3 ページ)

「フランクフルトモーターショー2015」で新たに設けられた展示スペース「New Mobility World」。8つの領域から成り、今まさに大きく変化しようとしている自動車業界の現状を感じ取ることができるという。筆者の桃田氏は、日本の自動車業界関係者に対し、「New Mobility Worldで意見交換し、時代の変化に対する危機感を実感してほしい」という。

» 2015年09月24日 11時00分 公開
[桃田健史MONOist]

 世界最大級の自動車ショーの1つである「フランクフルトモーターショー」。その一角に今年(2015年)、新たな展示スペースが設けられた。Volkswagen(フォルクスワーゲン)グループが陣取るホール3のエスカレーターを上がると、ショーの雑踏とは別世界、会場内はとても静かでブースのレイアウトも広々として開放的だ。

 ここが「New Mobility World」だ。会場中央には収容規模が300人程度のフォーラムスペース。その周辺に「スタートアップゾーン」「コネクテッドカーパビリオン」「デジタルインフラストラクチャ」「スマートシティフォーラム」「アーバンソリューションマーケット」「マルチモーダルマーケットホール」「モビリティソリューションセンター」、そして「エレクトリックビークルプラザ」という8つの領域を設けた。

「New Mobility World」の展示スペースイメージ 「New Mobility World」の展示スペースイメージ(クリックで拡大) 出典:フランクフルトモーターショー
「New Mobility World」のプログラムデベロップメントパートナーを務めるAndreas Nelskamp氏 「New Mobility World」のプログラムデベロップメントパートナーを務めるAndreas Nelskamp氏

 New Mobility Worldのプログラムデベロップメントパートナーを務めるAndreas Nelskamp氏は「IoT(モノのインターネット)やコネクテッドカーの出現により、自動車業界は今、大きな転換期に差し掛かっている。アメリカでは例年1月にラスベガスで開催される『International CES』に多くの自動車メーカーが参加して盛況だ。その流れで中国の上海でも2015年5月、『CESアジア』が初開催された。自動車技術の先進国であるドイツからも、自動車の新しいトレンドを発信するべきだという認識が自動車メーカーの中に強い。また、自動車業界では、欧州から自動車に関する優れたスタートアップを発掘したいと思いがある。さらに、ドイツ国内の各都市においては、環境対策や渋滞緩和などの観点で新しい交通のビジネスモデルを必要としている。こうしたさまざまな社会状況を踏まえて今回、このような大規模なプログラムを用意した」と語った。

 では、New Mobility Worldの会場内各エリアを巡った感想を紹介してみたい。

スタートアップゾーン

 まさに、ノマド。開放的なカフェをイメージしたスペースに、デスクトップ型やノート型のPCが並ぶ。スタートアップの種類や事業規模はさまざまだ。例えば、自動車整備などに使うOBDIIポートを活用した車両情報のアプリサービス、ナイトビジョンシステム、また走行中のドライバーの健康状況についてウェアラブル端末を介してデータ解析するシステムなど。各社とも来訪者と積極的な意見交換を行い、中には本格的な商談をしている姿もあった。プレゼンテーションステージでは、出演する側にも見る側にも気さくな雰囲気を感じさせるトークセッションを実施。ベンチャーキャピタリストや行政関係者などいが自動車関連のスタートアップに対する期待や要望を話していた。

スタートアップ各社が気さくな雰囲気でプレゼンテーションを実施した スタートアップ各社が気さくな雰囲気でプレゼンテーションを実施した(クリックで拡大)

コネクテッドカーパビリオン

 インフォテインメントのインテグレーターであるフランスのParrot(パロット)、車載器向け音声認識技術のマーケットリーダーである米国のNuance Communications(ニュアンス)など、自動車業界で名の知れた企業が集まった。各社が活用できるブース型の商談スペースがあり、本気の商品展示会という雰囲気だ。

 ニュアンスのブースでは車載器搭載型、スマートフォンと車載器の連携活用型、さらに車載器からLTE回線を通じたクラウド型の音声認識を搭載したデモカーを展示した。デモンストレーションでは、事前に設定された限られたコマンドではなく、普通の会話で用いる自然言語に対応していた。しかも応答速度は、既存の車載型の音声認識と比べてかなり早いと感じた。

 同社の筆頭副社長兼ゼネラルマネジャーのArnd Weil氏は「今体験していただいたように、ドライバーを発話者として、パーソナルな音声データを学習させている。そのため、言い回しのパターンや使用頻度の高い単語などを認識し、かなり長いメッセージをメールで送ることも可能だ」と説明した。こうした高度な音声認識は、Apple(アップル)やGoogle(グーグル)のスマートフォンでも対応しているが「電話帳データや走行ルートのデータなど、プライバシーやセキュリティに関わるものは、クラウドに上げるのではなく、車載器のなかでデータ管理している。また、クルマ特有の車内・車外の騒音を考慮したノイズキャンリングシステムを盛り込んで音声認識の精度を高めている。例えば、助手席の乗車員が電話で会話している状況でも、ドライバーの発話を正確に認識できる」という。

車載器向け音声認識の最大手・ニュアンスの筆頭副社長・ゼネラルマネジャーを務めるArnd Weil氏 車載器向け音声認識の最大手・ニュアンスの筆頭副社長・ゼネラルマネジャーを務めるArnd Weil氏

 ニュアンスは今後、クルマに特化したビジネスについて、これまでの車載器型を中核とし、これに加えてクラウドベースとスマートフォン連携を用途別に組み合わせて対応する。ちなみに今回の取材の前日、Daimler(ダイムラー)へのクラウドベース音声認識技術の提供が決まった。

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