日本人サーフェイサーが語る「ヒックとドラゴン」の映像進化とその制作プロセス3DCG映画の制作現場から学ぶ(3/3 ページ)

» 2015年10月20日 10時00分 公開
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研究は余裕を持って、しかし「見積もり」と「コミュニケーション」は不可欠

 山本氏はこのような「研究」の時間配分について、ドリームワークス・アニメーションでは「あらかじめ早い段階で計画を立て、新技術やテクニックの習得・探求に要する時間の見積もりを要求される」という。研究の時間は2〜3カ月間ほど用意されるということで「最初の段階では、結構余裕のあるスケジュールを与えてくれる。スーパーバイザーも(この段階では)甘くて……」と山本氏。

 しかし、クオリティには厳しい。一度OKが出たサーフェイスも、実際に動きを付けるリギング、背景モデルに組み込んで光を当てるライティングを行ったときに問題が出てくることも多い。動きの中で出てきた問題に対しても、サーフェイサーが引き続き対応を行うため、他の部門よりも長く作品に携わることになる。

 そのため、サーフェイサーは多くの人――プロデューサー、ディレクター、マネジャー、ライティング、リギング、モデリングチームなどなど――との正しいコミュニケーションが欠かせない。ドリームワークス・アニメーションではこのコミュニケーションも多くのツールの上に成り立っており、例えばモデルを作る上でのキーアートやコンセプトなどのアセット管理ツールだけでなく、メールやチャット、リモート画面操作のためのツールやタスク/リクエスト管理などのツールが完備されている。

 さらに、各メンバーは毎日スーパーバイザー/マネジャーと直接会話する機会があり、その時点でのレンダリング結果やクオリティを見せる場が用意されている。この時の指示は、コーディネーターと呼ばれる人員がきっちりとメモを残しており、それを後からメールなどでアーティストに送るというフローが確立しているという。「このメモが重要。アーティストは集中したいので、このメモがやるべきことの証拠となる。これがクリエイターを守ってくれる」と山本氏は述べる。

 分業という意味では、想像よりもきっちりと分けられている部分もある。「米国のスタジオでは、レンダリングはレンダリングの部隊が面倒を見てくれる。もし途中でレンダラーのエラーで止まってしまっても、それはレンダリング部隊がチェックしてくれるので、帰宅前にレンダリングを実行すると、大抵は朝の時点で完了している」(山本氏)という。そのため「お互いのテクニカルサポートはとても重要だ」と山本氏は述べる。

 「XGenはまだ開発段階なので、開発メンバーやオートデスクのメンバーと一緒に、さまざまなフィードバックをしながら改良している。毎日のようにアップデートが行われ、朝一番にまずテクニカルサポートに電話し、どこでうまくいっていなかったかを伝える毎日だ。サーフェイサーとしてペインティングをしている作業は5%ほどで、後はセットアップや他の部署とのやりとりが95%くらい」(山本氏)。

ゼロから作る――それがCG映画制作の醍醐味(だいごみ)

 山本氏は、ドリームワークス・アニメーションでの仕事について、「クライアントのいる仕事じゃないので、テクニカルな能力、アートな能力を発揮して作業をする」と表現する。そこには、アートと技術のせめぎ合いもあるという。「例えば技術的、物理的には正しい動きをしているものも、レンダリング結果をアーティストが見ると“現実的にはあり得ないよ”と瞬時のフィードバックが行われる。それが刺激になり、エンジニアもアーティスティックなテイストを組み込む。ベテランになると、アーティスティックとエンジニアリングの融合が見られるようになる」と山本氏は述べる。

 モノづくりと3DCG映画の制作は、一見全く異なる領域に見える。しかし、専門ツールを使いこなし、多くの関係部署とコミュニケーションを図りつつ、技術と創意工夫をもって1つの作品(製品)を作り上げていくプロセスは、モノづくりの世界も3DCG映画の世界もそう大きくは変わらない。もし次に3DCGを使ったアニメーション映画を見るときは、その裏にある技術や工夫を少しだけ気にして鑑賞してみてはいかがだろうか。

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