国立循環器病研究センターがISO13485を取得「研究成果を早期に製品化する」医療機器ニュース

国立循環器病研究センターとUL Japanは、同センターが医療機器開発の品質マネジメントシステム(QMS)を整備するとともに、医療機器開発におけるQMSの国際規格であるISO 13485の認証を取得したと発表した。国内のアカデミア(大学・研究組織)が、ISO 13485の認証を取得するのは初の事例となる。

» 2015年11月09日 09時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 国立循環器病研究センターと第三者認証機関であるUL Japanは2015年11月6日、東京都内で会見を開き、同センターが医療機器開発の品質マネジメントシステム(QMS)を整備するとともに、UL Japanの監査のもとで、医療機器開発におけるQMSの国際規格であるISO 13485の認証を取得したと発表した。国内のアカデミア(大学・研究組織)が、ISO 13485の認証を取得するのは初の事例となる。

左から、UL Japanの山上英彦氏、米国本社ULの認証監査の担当者、国立循環器病研究センターの妙中義之氏、巽英介氏 左から、UL Japanの山上英彦氏、米国本社ULの認証監査の担当者、国立循環器病研究センターの妙中義之氏、巽英介氏。妙中氏、巽氏が携えているのは、認証取得の証明となる楯と証書だ

 国立循環器病研究センターは、患者の診断や治療を行う病院と、研究開発を担当する研究所、病院と研究所が連携して取り組んでいる研究・治療実績などを生かし、基礎研究・臨床研究から製品化までをワンストップで実現する研究開発基盤センターなどから構成されている。

 今回の認証取得したISO 13485の体制は、研究所内で人工臓器の設計開発を行っている人口臓器部と研究開発基盤センターの知的資産部を横串を通す形になっている。認証取得の分野は人工臓器の補助循環装置である。

国立循環器病研究センターにおけるISO 13485の体制 国立循環器病研究センターにおけるISO 13485の体制(クリックで拡大) 出典:国立循環器病研究センター

 国立循環器病研究センター 研究開発基盤センター長を務める妙中義之氏は「イノベーションとは新たな価値を生み出すことだ。これまで、われわれのようなアカデミアは、研究的・科学的価値を生み出すことに重きを置いてきた。しかし、今回のISO 13485の認証取得により、規制を通過する=製品化するための価値を新たに生み出すための体制を整えられた」と語る。

「無駄がなくなって製品化をスピードアップできる」

 今回のISO 13485の認証取得で主導的な役割を果たしたのが、国立循環器病研究センター 研究開発基盤センター 副センター長の巽英介氏だ。巽氏は、ISO 13485の体制に関わる組織のトップ(研究開発基盤センターの知的財産部長、研究所 先進医工学部門長・人工臓器部長)を兼任している。

 同氏は「従来、アカデミア発の医療機器を製品化するプロセスで課題になっていたのが、薬事などの承認を得るのに必要な試験などの検証や文書作成といったエビデンスを整える作業の二重化だ。アカデミアは、研究開発には熱心だが、その際に出たデータの管理にはあまり気を使わないことが多い。しかし、企業側が製品化する場合には、薬事承認などのためにエビデンスが必要になるので、再度それらのデータを取得していたというのが実情だった」と指摘する。

従来のアカデミア発医療機器の製品化プロセスISO 13485取得後の国立循環器病研究センターを中心とした医療機器の製品化プロセス 従来のアカデミア発医療機器の製品化プロセス(左)とISO 13485取得後の国立循環器病研究センターを中心とした医療機器の製品化プロセス(右)(クリックで拡大) 出典:国立循環器病研究センター

 しかしこれでは、時間、コスト、マンパワーの面で損失が大きい。「アカデミア側で、しっかりデータや資料をエビデンスとして蓄積できるようになれば、無駄がなくなって製品化をスピードアップできる。今回の認証取得によって、これから国立循環器病研究センターの研究開発成果を製品化する際に大いに役立つだろう」(巽氏)という。

 国立循環器病研究センターでISO 13485の認証取得に向けた具体的な活動が始まったのは2013年ごろからだ。基礎調査や体制、手順書などの整備、QMS体制の運用訓練などを進めて、2015年初からULによる監査を受け、同年8月27日に認証を取得した。

 ISO 13485の認証取得に向けた準備を進めてきたこともあり、既にISO 13485を生かした研究開発も実践されている。会見では、事例の1つとして「体外式連続流補助人工心臓システムの非臨床試験」を挙げた。

 体外式連続流補助人工心臓システムは、世界初で唯一の動圧浮上非接触回転型体外式遠心ポンプシステム(BIOFLOAT-NCVC)を採用している。樹脂製の羽根車がポンプからの連続流だけで非接触回転するもので、構造が簡素なので安価なシステムを構築できることが特徴になる。高精度求められる羽根車の技術は三菱重工が提供し、二プロが製品化を進めているという。

「体外式連続流補助人工心臓システムの非臨床試験」の事例 「体外式連続流補助人工心臓システムの非臨床試験」の事例(クリックで拡大) 出典:国立循環器病研究センター

 そして、国立循環器病研究センターがISO 13485に基づいて取得した非臨床試験データは、薬事承認申請の添付資料として利用できるので、二プロによる製品化を早めることに貢献できる。

 UL Japan社長の山上英彦氏は「国内で医療機器開発への取り組みが進展する中で、ISO 13485の認証取得や海外の医療機器規制への準拠に対する需要が高まっている」と述べている。

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