はやぶさ2から小惑星に降り立つローバー、「ミネルバ2」の仕組み(前編)次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(11)(3/3 ページ)

» 2015年11月17日 07時00分 公開
[大塚実MONOist]
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ローバーシステムの概要

 ローバーのシステムは、ローバー本体に加え、OME-E(中継器)、OME-A(アンテナ)、保持・分離機構で構成される。

 ローバーは、分離するまではしっかり保持しておいて、分離したいときには確実に分離する必要がある。これが保持・分離機構の役割だ。打ち上げ時、ローバーにはカバーを付け、その上からワイヤーで巻いて固定。分離時には、このワイヤーを火工品で切断する。するとバネの力で、カバーが開き、ローバーが押し出されるという仕組みだ。

ローバー1はこの中に格納。外側からローバー本体は見えない ローバー1はこの中に格納。外側からローバー本体は見えない

 ミネルバ2では、保持・分離機構を大幅に改良した。ワイヤーが切られると、カバーはドアのように開き始めるが(下図 1〜2)、ある角度まで開くとヒンジ部の拘束が外れて分離(下図 3)。これにより、カバーとローバーをワンアクションで、異なる方向に放出できるようになった。カバーは母船の斜め方向に、ローバーは横方向にゆっくり離れていく。

ローバー分離の仕組み。ローバー1は2台同時に放出される ローバー分離の仕組み。ローバー1は2台同時に放出される

 初代では、カバーとローバーは同一方向に放出されるはずだったのだが、予想からズレた方角に飛んだらしいということが分かっている。この原因について、吉光准教授は「カバーの接触面で部分的に固着があったのでは」と推測する。真空中では、金属同士の固着が起こりやすい。どこかが固着すれば、そこが引っ掛かり斜めに飛んでいってしまう。

 新しい保持・分離機構では、このときの経験を反映させた。片持ちの開閉機構になるため、振動試験をクリアするのに苦労したそうだが、分離がより確実になった。

 そして分離後は、地上からのコマンドも、観測したデータも、全て母船を経由して送受信を行う。ローバーは小型で電力も限られるため、地球と直接通信することはできないからだ。このときに母船側のインタフェースとなるのがOME-EとOME-Aである。

 と、前編はここまでにしておきたい。後編では、ローバー1の本体について、さらに詳しく見ていく。

筆者紹介

大塚 実(おおつか みのる)

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「完全図解人工衛星のしくみ事典」「日の丸ロケット進化論」(以上マイナビ)、「人工衛星の“なぜ”を科学する」(アーク出版)、「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)など。宇宙作家クラブに所属。

Twitterアカウントは@ots_min


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