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» 2015年11月24日 12時09分 UPDATE

5分でわかる最新キーワード解説:空間のボタンを押すと感覚が伝わる「空中超音波触覚インタフェース」

空中に浮かぶ映像のボタンを押すと感触が伝わり、手のひらに映し出した映像の小動物が移動するとサワサワと動き回る感触が伝わる。これらを実現したのは超音波技術です。その原理はどうなっているのでしょうか。

[キーマンズネット]

 今回の最新キーワードは「空中超音波触覚インタフェース」。箱の中の何もない空間にぽっかり浮かぶボタンの映像を指で触ると「ポチリ」と接触感が伝わる空中触感タッチパネル、手のひらに投射した映像中の小動物が移動すると、さわさわと動き回る感触を覚える触覚プロジェクタ、光学的に再現した3次元クローン物体を押すと実物が傾く触覚クローン……。これらを実現したのは超音波技術です。一体どんな原理なのでしょうか。

「空中超音波触覚インタフェース」とは

 超音波振動子を格子状に多数並べた超音波振動子アレイから、空中の任意の位置に焦点を結ぶように超音波を発生させると、そこには「音響放射圧」と呼ばれる圧力が生じる。その位置に人間の手指などがあれば、表面に押されるような触覚刺激が生まれる。この現象を利用して、バーチャルリアリティの世界に触覚を追加するのが「空中超音波触覚インターフェース」だ。

  • 何もない空間で触感が生まれるってどういうこと?

 映像や音響で実際にはそこにはないものを臨場感・現実感豊かに表現する技術はもうおなじみかもしれない。VR(Virtual Reality/仮想現実)やAR(Augmented Reality/拡張現実)技術による表現を誰もが一度は目にしたことがあるだろう。その仮想物体に触りたいという衝動に駆られることもしばしばだ。しかしそれはこれまで叶わなかった。

 その思いを実現してくれそうな技術が空中超音波触覚インターフェースだ。と言ってもそれほどしっかりした固体形状を感じさせてくれるわけではない。しかし本当はそこにはない空中に浮かぶアイコン映像を押すと、指に押した感覚が伝わる程度には触感を生み出すことができる。

 その技術を開発したのは東京大学大学院新領域創成科学研究科の篠田裕之教授のグループだ。篠田教授らはこれまでに超音波を利用した触覚表現技術を幾つも形にしてきた。例えば、2014年にデモが披露された「空中触覚タッチパネル」(図1)。これは中空のボックスの中に浮かぶアイコンをタッチすると、指にパネルを押した感触を生むシステムだ。

図1 空中触覚タッチパネル 図1 空中触覚タッチパネル(資料提供:東京大学 篠田・牧野研究室)

 例えば手術室や食品加工現場などで、汚れた手で何かに触れることを避けたい場合に応用することができそう。またキー入力を使って開閉するドアロックに使えば、指紋を残さずにセキュリティを高めることもできる。

 空中に光学的な仕組みで立体映像を作り出す技術は既にあり、映像センサーを用いて指の動きなどを感知して同様に入力インタフェースとして使う試みもあるが、指や手は何の感触もなく立体映像をすり抜けてしまい、操作性に課題がある。そこに触感をプラスすることで、確かに操作を行った感覚を得ることができる。またアイコンのあるところとないところで触感を変えれば、正確な操作をガイドすることも可能だ。

 このような実用性のあるシステムの他に、映像とシンクロした触感を生み出して、エンターティンメント領域で利用できそうな実験システムも開発されている。例えば「触覚プロジェクタ」だ。ヤモリが走る映像をプロジェクタで投射し、その映像の中に体を入れると、ヤモリが皮膚の上をかけのぼる感触が得られる(図2)。

図2 触覚プロジェクタ 図2 触覚プロジェクタ(資料提供:東京大学 篠田・牧野研究室)

 もう1つ、研究成果を紹介しよう。図3は右側にある紙風船が本物であり、左側に見えるのは、光学的に映し出したクローンの紙風船だ。クローンの方にもう1つの紙風船をぶつけると、本物の紙風船が飛ばされる(クローンの紙風船ももちろん同じように飛ぶ)。またクローンを揺さぶると、本物も同じように動く。この技術は「視触覚クローン(Haptoclone:Hapic & optical clone/ハプトクローン)」と呼ばれる。

図3 視触覚クローン 図3 視触覚クローン(資料提供:東京大学 篠田・牧野研究室)

 同様の技術を利用して、離れた場所にいる人が互いに相手の姿を見ながら、手を伸ばして装置内に入れると、手が触れ合う感触を得ることもできる(図4)。

図4  離れた場所の二人の指が触れ合う感触を得る視触覚クローン 図4 離れた場所の二人の指が触れ合う感触を得る視触覚クローン(資料提供:東京大学 篠田・牧野研究室)

空中超音波触感インタフェースの仕組み

 こうした触感を生み出しているのは、冒頭で述べたように超音波振動子。これを250個格子状に並べたものを1ユニットとし、個々の超音波振動子の発生する音波の位相を個別に制御する。空間の任意の1点に超音波が焦点を結ぶように制御すると、そこに音響放射圧と呼ばれる力が生じる。その位置を人間の体で遮ると、皮膚が押されて触感が生まれる。その力は1平方センチあたり1.6g重になる。これはタッチ感を得るには十分な値だ。また複数のユニットを使うと10g重くらいまでの圧力となる。この音響放射圧の位置を、映像とシンクロするように移動制御すれば、触覚プロジェクタが出来上がるわけだ。

 超音波の振動波形を変化させることで、触感もさまざまに制御できるという。「軽いものが衝突する」「虫がぬるぬる這う」「花火がはぜる」ような感覚なども生み出せるそうだ。

 空中触覚タッチパネルの場合は、立体映像を作る光学的な仕組みも必要だ。これには市販の空中映像投影技術が採用されているが、超音波と空中映像の伝搬軸を重ね合わせるために結像素子の表面で超音波を反射させるようにし、また映像に指が触れた位置とタイミングをセンシングして、それに応じて音響放射圧がかかる位置を制御している。

 視触覚クローンの場合は、クローン映像を作るために特殊なマイクロミラーアレイを使って光を双方向にコピーする技術が使われているが、これも市販デバイスを利用した。力の場のコピーには1992個の超音波振動子を使い、上下左右から立体的な力を発生させている。なお対象物体の形状は赤外線を用いたデプスセンサーによって計測しているとのことだ。

バーチャルな触覚を生み出す技術のこれまでと今後

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