デジタルツインを実現するCAEの真価

サンマのイイ感じの焼き加減を解析! おいしさや楽しさを届ける調理器具開発とCAECAEとスパコン活用事例(1/3 ページ)

パナソニック アプライアンス社は、キッチン家電をはじめとする製品設計において、CAEをフル活用している。外部スパコンも使い分けながらうまくシミュレーション環境を構築している同社だが、本格活用するようになったのは「とあるトラブル」が原因だった。

» 2015年11月25日 10時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 パナソニック アプライアンス社のキッチンアプライアンス事業部は、IHクッキングヒーターや炊飯器、電子レンジ、食洗機といった調理関連家電の設計、製造を行っている部門だ。同事業部では、製品の新機能の試作前検討に社外スパコン(スーパーコンピュータ)を活用するなど、CAEの積極的な活用を推進している。同社キッチンアプライアンス事業部 IHCH技術部 IHCH設計課の課長である林真弘氏に、CAEの本格導入のきっかけから、現在のスパコンを活用した設計環境を構築するまでに至る話を伺った。

パナソニック アプライアンス社 キッチンアプライアンス事業部 IHCH技術部 IHCH設計課 課長の林真弘氏とビルトイン型調理設備

IHクッキングヒーターの安全を守る

 キッチンアプライアンス事業部が本格的にCAEを活用することになったのは、2007年ごろのIHクッキングヒーターの設計がきっかけだったという。当時、既に販売していた高価格帯のIHクッキングヒーターがあり、それをベースにして普及価格帯の製品の設計が進められていた。

 設計要件の1つとして挙げられるのが「衝撃で壊れないこと」だ。IHクッキングヒーターは据え置きで使用するため、輸送および運搬時の振動と落下が検討される。特に中の基板は、割れるなどしても外からは見えない。ひびが入ったくらいでは動作してしまうこともあり、使用中の事故につながる可能性がある。そのため基板の耐衝撃性の確認は重要なポイントの1つだ。

 設計部ではコストダウンの方向で設計の簡略化や材料の削減などを検討した上で、製品の落下試験を行った。だが結果は、基板の複数個所に亀裂が発生してしまい散々な結果だったという。冷却やEMCの設計もやり直しとなり、そこからは関係者総出で1カ月間、不眠不休での設計、試験の繰り返しに追われることになってしまった。

図1:ビルトイン型のIHクッキングヒーター。下は魚焼きグリル。
図2:IHクッキングヒーターの上面(構造が見えるようになっている)
図3:3段に重なった基板モジュール。一辺は20cm前後。IHを駆動するため基板モジュール自体の重量も相当なものになる。
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