「はやぶさ2」が地球に近づく理由、「地球スイングバイ」の仕組み(2/3 ページ)

» 2015年12月03日 07時00分 公開
[大塚実MONOist]

 スイングバイというと加速するイメージの方が大きいだろうが、後方ではなく、天体の前方を通過すれば、減速にも利用できる。

 余談になるが、日欧協力プロジェクトの水星探査計画「BepiColombo」が良い例だ。2017年に打ち上げ予定のこの探査機は、地球で1回、金星で2回、水星で5回という計8回もの減速スイングバイを行う計画だ。

 内惑星へ向かうためには、まず探査機の公転速度を落とす必要がある。一方で、探査機を惑星周回軌道に投入するためには、惑星の近くでさらに減速しなければならない。しかも水星は小さく、重力が弱い。その分、強く減速しないと、周回軌道に入れない。これには巨大なエンジンと大量の燃料が必要だったため、長らく実現できなかった。水星周回に必要なエネルギーを外側に使えば、太陽系を脱出できるほどだという。

 スイングバイにより、初めて水星の周回探査に成功したのは米国の「Messenger」で、これは2011年と、つい最近のことだ。どれほど水星が「近くて遠い星」であるかが分かるだろう。BepiColomboは8回のスイングバイのために、7年の長旅となるが、周回飛行に成功すれば2例目となる予定だ。

 さて、はやぶさ2に話を戻すが、地球への最接近時刻は日本標準時で2015年12月3日の19時8分7分秒になる見込み。このときの高度は約3090kmで、場所は太平洋の上空。大型の望遠鏡が必要になるものの、日本から観測するチャンスもあるということで、プロジェクトのWebサイトでは、観測に必要なデータも公開している(JAXA:「はやぶさ2」の地球スイングバイについての情報を公開します!)

地球の自転も関係するため、このような複雑な軌跡になる。最接近の前に、日本上空も通過していることが分かる 地球の自転も関係するため、このような複雑な軌跡になる。最接近の前に、日本上空も通過していることが分かる

軌道決定では新技術も採用

 計画通りに地球スイングバイを行い、リュウグウに向かうためには、精度良く、決められたコースを飛行することが求められる。地球接近前の誤差が大きいとスイングバイ後の軌道も大きくズレしまうからだ。

はやぶさ2の地球スイングバイ解説

 今回、スイングバイ中にエンジンは噴射しないので、成功するかどうかは、事前の軌道制御で、どれだけ誤差を修正できるかにかかっている。軌道制御の精度目標は、位置が数km、速度が数cm/sというオーダー。この目には見えない回廊の中を、決められた速度で正確に通る必要があるのだ。

 計画通り飛行するためには、まず探査機の位置と速度を精密に計測して、現在の軌道を求める(軌道決定)。次に、計画値との誤差を修正するようにエンジンを噴射して、再び軌道決定を行う。これを繰り返し、誤差をゼロに近づけていく。

スイングバイでは、的の中の決められた場所を正確に通るように、探査機の精密誘導を行う必要がある スイングバイでは、的の中の決められた場所を正確に通るように、探査機の精密誘導を行う必要がある

 はやぶさ2の軌道決定では、日本の探査機としては初めて「Delta-DOR」という観測手法を採用した。従来は、ドップラー計測で視線方向の速度を、レンジ計測で距離を調べ、数日間の観測結果から軌道を決定していたが、これにDelta-DOR観測を加えたことで、精度が向上した。10月8日の距離(2300万km)では、位置精度が2.0kmから180mに、速度精度が1.3mm/sから0.9mm/sへと、それぞれ向上したという。

Delta-DORによる効果は大きい。従来の軌道決定精度は緑の範囲であったが、赤の範囲まで小さくなる Delta-DORによる効果は大きい。従来の軌道決定精度は緑の範囲であったが、赤の範囲まで小さくなる

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