日本初の惑星探査を目指す「あかつき」、5年越しの再チャレンジ(3/4 ページ)

» 2015年12月06日 17時30分 公開
[大塚実MONOist]

想定外の長い旅路

 筆者は今回のVOI-R1について、特に心配はしていない。むしろ気になるのは探査機の状態だ。あかつきの目的は「金星周回軌道に入れること」ではなく、「金星を科学観測すること」である。周回軌道投入はゴールではなくスタートなのだ。

 あかつきは打ち上げから5年半が経過。設計寿命は4年半なので、これは既に超過している。設計寿命を越えたからといってすぐに壊れるものではないが、機器の劣化は気になるところだ。

 特に気掛かりなのは熱によるダメージ。あかつきは地球から金星へ向かう探査機なので、1AU〜約0.7AUの熱環境で動作するよう設計されているが、金星を通過したため、近日点では太陽に約0.6AUまで近づくことになってしまった。金星軌道での熱入力が2649W/m2であるのに対し、近日点では最大3655W/m2。設計条件は2800W/m2なので、これを大幅に上回る。

9回の近日点通過を経験。そのたびに機器の温度が上がった 9回の近日点通過を経験。そのたびに機器の温度が上がった

観測機器が無事なのかどうか気になるが、観測機器は探査機の中でも比較的“快適”な場所に搭載されているというのは安心材料。一部の機器ではチェックが金星到着後になるものの、「中間赤外カメラ(LIR)」「紫外イメージャ(UVI)」「1μmカメラ(IR1)」の3台については、既に起動試験が行われ、最低限の健全性が確認できている。ただ本格的な試験は金星到着後になる模様だ。

 あかつきのもともとの計画では、遠金点8万kmの楕円軌道(周期30時間)で観測を行う予定だったが、十分な燃料が残っていないため、観測軌道は同31〜33万kmのかなり細長い楕円軌道(周期9日)になる見込みだ。VOI-R1のあとは、燃料は数kgくらいしか残らないものの、2年間の観測が可能になるよう考えられているということだ。

あかつきの観測計画。距離に応じた観測を行う あかつきの観測計画。距離に応じた観測を行う

 金星から離れた軌道になるため、観測画像の解像度が悪くなるのはデメリットだが、より長期間の連続観測ができるというメリットもある。新軌道に適した観測計画を立てることで、かなりの部分の観測はできるものとみられている。金星から遠い場所での撮影だと、何も写っていない領域が増えるので、金星付近だけ切り出して送信する機能を追加。解像度の低下を撮影頻度の向上でカバーするという。

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