RIS/PACSに学ぶ“横串を通す”医療ITとは医療機器開発者のための医療IT入門(5)(3/3 ページ)

» 2015年12月10日 10時00分 公開
[笹原英司MONOist]
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二次医用画像の利活用からビッグデータ分析の応用へ

 収集した一次医用画像データをソースとする二次医用画像の利活用のフェーズで期待されるのが、ビッグデータの技術だ。

 例えば、第2回で紹介した、Hadoopクラスタによる非構造化データの分散処理をベースとする病理診断画像化/デジタル病理診断のユースケースでは、2Dの病理診断画像を、3Dレーザー技術により、高解像度の組織標本画像を生成して検査することにより、効果的な疾病診断を可能にする手法の開発が進んでいる。

 3D病理診断画像分析により、細胞核、血管など、大量(画像当たり百万単位)の空間オブジェクトがセグメント化され、これらのオブジェクトから多く抽出された画像特性に沿って境界が示される。生成された情報は、生物医学研究や臨床診断の支援を目的として、大量の複雑なクエリや分析に利用される。参考までに、図2は、3D病理診断画像を2D画像と比較した例である。

図3 図3 2D(左)と3D(右)による病理診断の比較例(クリックで拡大) 出典:NIST「Big Data interoperability Framework Version 1.0 Working Drafts」(2015年4月)

 さらに、ビッグデータ分析の観点からは、画像から空間情報を抽出するために、パフォーマンスの高い画像分析アルゴリズムを開発し、効率的な空間のクエリ/分析を提供して、クラスタリングと分類を特徴付ける試みが行われている。

 現段階では、院内のPACS画像表示端末による業務を想定しており、今後、モバイルプラットフォーム上での3D病理診断画像の可視化技術の開発が課題となっている。

 また、情報セキュリティに関しては、患者の機微な個人データ保護、研究用に公開されるデータの匿名化、Hadoopに代表されるオープンソースソフトウェアのセキュリティ脆弱性対策などが課題となっている。

横串的な発想で付加価値を狙うグローバル医療機器ベンダー

 PACSを起点とする、モバイル/IoTとビッグデータによる診断支援技術は、機器の相互接続性(Interconnectivity)とデータの相互運用性(Interoperability)を確保できれば、治療支援や医学教育支援、遠隔医療支援、地域医療連携支援へと応用できる可能性が広がってくる。

 GE、フィリップス、シーメンスといったグローバル医療機器ベンダーは、これらの領域を横串で通すような流れに上手く乗れるアプリケーションの早期開発、エコシステムによる連携を目指して、制御系技術の枠を超えたオープンイノベーションを積極的に展開している。

 病院情報システム(HIS)、臨床情報システム(CIS)、電子カルテシステム(EMR/HER/PHR)、地域医療連携システム(HIE)いずれも、個別分野におけるコモディティ化が進行しており、PACSのように、横串的な発想で付加価値をつけられるソリューションの開発が期待される。

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

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