世界初の“凍る”鋳造技術を実用化! 業界常識を覆した町工場の“熱い”挑戦イノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(4)(2/5 ページ)

» 2015年12月11日 08時00分 公開
[松永弥生MONOist]

多くの町工場が頭を抱えた「住工混在問題」

 前述のように、西淀川区は日本でも有数の工業地帯だった。けれど大手企業の工場の移転が続き、その跡地にはマンションが建設された。西淀川区は交通の便が良く、新たに移り住む人が次々と増えた。これに伴い、以前からある町工場と住民の間で、騒音・振動・異臭などに関するトラブルが発生するようになった。いわゆる「住工混在問題」だ。

 鋳造の場合、樹脂で砂を固めた鋳型に熱い金属を流し込むと、砂に混ぜた粘結剤の樹脂が溶けてガスが発生し悪臭が生じる。また固まった金属を取り出すために、鋳型をハンマーで壊す際には振動や騒音、粉じんが伴う。これが住民とのトラブルの原因となっていた。

鋳造工程を見学させていただいた。写真は溶かした金属へ成分調整用材料を投入している様子(クリックで拡大)
1600度に溶かした金属を鋳型に流し込む(クリックで拡大)

「凍結鋳造システム」がトラブル解決への切り札に

 住民とのトラブルを回避するために郊外に移転する鋳物工場もあった。しかし三共合金は、移転できない理由を抱えていた。

 「当社が住友金属工業(現:新日鐵住金)から受注している案件は、製造に特殊な技能を持つ職人が必要です。職人を失う可能性がある移転はできませんでした」と松元さんは理由を語る。設備は移動できても、熟練工がいなければ製品は作れない。つまり同社にとっては、熟練の技術を持った職人たちが住む西淀川区で事業を続けるのが最善の策だったのだ。

 そして凍結鋳造システムは、こうした住民とのトラブルに関する問題を全て解決できるシステムだった。砂は樹脂ではなく水を混ぜて凍らせているだけだから、異臭がでない。金属が冷えるに従い、凍った砂型は自然に溶けるため砕く必要もない。砂はそのまま再利用できる。非常に画期的な技術だ。

 もちろん、実用化に向けクリアしなくてはならない課題も数多くあった。

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