NDAにおける上手な「秘密情報の定義」とは?いまさら聞けないNDAの結び方(5)(4/4 ページ)

» 2016年01月27日 10時00分 公開
[柳下彰彦MONOist]
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秘密情報の定義をコントロールする重要性

 これらの2つの例をとって、CFGモーターズから提示されたNDAのひな型に記載された「秘密情報」の定義が十分な内容となっているか否かを検討しました。繰り返しになりますが、重要なことは、自社(大江戸モーター)が相手方(CFGモーターズ)にどのような形式・方法(有体物、電子データ……)で秘密情報を開示するかをあらかじめ想定しておき、こうした想定の下で開示される情報が「秘密情報」に含まれるかを検討し、含まれないならば定義規定を修正する必要があるということです。

口頭による情報開示は要注意

 なお、上記秘密情報の定義には、以下のような規定をしています。

「『秘密情報』とは、本目的のために甲又は乙が相手方に開示する技術上、営業上の情報であって・・・口頭にて情報が開示される場合は、開示の際に開示される情報が秘密である旨が示され、開示以降15日以内にその内容を書面化して情報の受領者に当該書面が提供された情報をいう」

 これにより、口頭で開示される情報も「秘密情報」に含まれ得るようになっています。こうした口頭開示の情報を秘密情報に含めるような規定は、ほとんどのNDAの契約書で見かける内容で、これ自体に特に大きな問題はないと思います。

 しかし、実際の打ち合わせの場面を想定すると、上記のような煩雑な手続を取ることは必ずしも容易ではありません。口頭開示した情報を秘密情報としてNDAの保護を受けることは実務的には容易でないことが分かると思います。

 なぜなら、江戸氏が口頭で情報を開示する際、江戸氏は矢面氏に対し「今説明した口頭での情報は当社の秘密情報です」と指摘した上で、打ち合わせから15日以内に口頭説明の内容を書面にして矢面氏に提供する必要があるからです。そのため、大江戸モーターとCFGモーターズとの協業の実現可能性検討の情報交換においては、大江戸モーターが開示した秘密情報を後になって特定しやすくするためにも、江戸氏は、矢面氏に対し、書面で秘密情報を開示することが賢明かと考えます。

 今回はこの程度としましょう。次回は、今回の続きでNDAを結ぶ際に留意すべき他の点についてさらに説明します。

筆者プロフィル

柳下彰彦(やぎした あきひこ)

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 化学メーカーにて、電子デバイスの商品開発および研究開発に従事後弁理士資格を取得し、同社知的財産部にて、国内外の出願関連業務、国内外の渉外業務などに従事。その後、弁理士として独立し、国内外の出願関連業務、国内特許の鑑定などを行う。

 慶應義塾大学理工学部計測工学科卒業。慶應義塾大学大学院理工学研究科物質科学専攻修士課程修了。桐蔭法科大学院法務研究科修了。2011年より弁護士法人内田・鮫島法律事務所に入所し、現在に至る。

 2000年に弁理士試験合格、2009年に司法試験合格、2010年弁護士登録、2013年弁理士再登録。


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