IoT本格化のなかで製造業が“モノづくり競争力”を維持するために――スピード開発の実現と複雑化する顧客ニーズへの対応

IoT本格化や複雑化する開発工程といった変化にさられている製造業が、その変化に対応するための考え方として注目されている「継続的エンジニアリング」。この「継続的エンジニアリング」によってどのようなメリットを得られ、また、具体的な導入に際しては何から着手すべきなのか。医療機器メーカーの導入事例から検証する。

» 2016年02月15日 10時00分 公開
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前回は「モノづくり」におけるトレンドの変化と、そのトレンドにキャッチアップしていくための「継続的エンジニアリング(Continuous Engineering)」の重要性について紹介した。今回は実際にどのような業界で継続的エンジニアリングの取り組みが行われているのかを詳しく見ていこう。

「継続的エンジニアリング」を必要とするケース

 昨今多く登場しているIoT(Internet of Things)をうたう製品群を見ても分かるように、最終的にハードウェアの形で提供されるものであっても、各所にインテリジェント化が進んでいる。それはつまり、製品全体に占めるソフトウェア部分の比重が高くなり、その重要性も増していることを示している。

 ソフトウェアのコードは肥大化・複雑化していくと、再利用や検証、チーム内での協調作業による効率化が重要になってくる。ただ、これはソフトウェア開発だけの話ではなく、製品を作るうえでハードウェア部分も含めた全てについていえることだ。

 個々の工程においてさまざまなツールが利用されており従来であれば工程ごとにサイロ化が発生して横の連携が難しかったものを互いに連携させ、「継続的エンジニアリング」を実現することが競争力の強化につながってくる。このあたりは前回にADAS(Advanced Driving Assistant System:先進運転支援システム)の導入からコネクティッド・カーへと進化しつつある自動車や、Industry4.0に代表される相手を限定しない協調作業や高い作業柔軟性が求められるロボットアームを例に解説した通りだ。

 日本アイ・ビー・エム Watson IoT テクニカルセールスの徳島洋氏によれば、自動車業界の他に「継続的エンジニアリング」への取り組みが進んでいるのが医療機器関係だという。

 医療機器の開発製造現場で問題となるのは「レギュレーション(法規制)」に関わる問題で、機器それぞれで規格が定義されており、適時レギュレーションの変更に合わせた形で対応が必要になるためだ。また査察官が訪れて実際にチェックを行う場合に対応するために、即座に証明となる資料を用意しなければならない。

 これを従来ながらの手法で手作業で集めると非常に手間がかかるが、ツールである程度自動化することで対応が簡略化できる。自動車と同様に、こうしたレギュレーション対応は各国への医療機器輸出でも役立ち、安全管理や認証取得面などで効果を発揮することになる。

医療機器分野での活用事例

 実際の国内導入事例はどうなのだろうか。前回も紹介したように、理想的には「モノづくり」における全ての工程で横断連携が可能なツールを導入することが望ましい。しかし、まずは業務プロセスの中で必要な部分にツールを適用して効率化を行うケースのほうが多いといえる。

 内視鏡などで世界的なシェアを持つ医療機器大手のオリンパスでは、一連の業務プロセスのうち「ドキュメント管理」に注目し、まずは情報共有ということで設計図や仕様書、マニュアルといったドキュメント類をツールスイートで管理することを考えた。

 同社ではこれまで設計、開発、品質保証、薬事など各部署でそれぞれの標準作業手順に従って、さまざまなドキュメントを作成してきた。そうして作成されたドキュメントは部署間で適時、関係部署に渡されて共有されることになるが、部署ごとに作成されるドキュメントが異なるために、共通項目がありながら元の文書をコピーしつつ新規作成したり、同じ内容を都度入力し直したりと、後のチェックなども含めれば手間が非常に多く、ここに効率化の余地があったといえる。

 ドキュメント管理という目的を実現するために着手したのが、ドキュメントの構造化だ。医療機器の世界ではFDA(米国食品医薬品局)のほか、事実上の業界標準となっているISO(国際標準化機構)でドキュメント内の各要素に対する「トレーサビリティ」が必要要件に挙げられており、これを実現して互いの要素の関連性や構造を明確にするためにも、ツールの存在が重要な役割を果たす。

 具体的には、技術情報を構造化するためのXMLに基づいたアーキテクチャである「Darwin Information Typing Architecture(DITA)」に注目し、ドキュメントの構造化を中心とした業務改革をIBMの「DOORS」や「Rational Engineering Lifecycle Manager(RELM)」などを導入することによる実現を検討している。その結果、1製品あたり各部署合計で1000件近く作成され、都度の受け渡しが行われていたドキュメントを「連携したドキュメントチェーン」として利用する事が可能になると言う。

RELMは各開発プロセスの構成要素の視覚化、影響分析、データ編成機能を持ち、他のツール群やソリューションと連携することで、製品開発全般にわたる論理的な成果物管理を可能にする

 ソフトウェアのソースコードとは異なり、こうした仕様書や設計図といったドキュメント類においてはこれまで各要素(コンポーネントやオブジェクトと呼ばれる)を派生させる仕組みがなかったが、IBMのツールスイートはそうしたドキュメント管理にも威力を発揮する。また、セールスやエンジニアがドキュメント群を独自にメンテナンスできるようにすることも重要で、このメンテナンス性の確保がトレーサビリティを確保しつつ製品の継続したサポートを可能とする。これも「継続的エンジニアリング」において重要な要素だろう。

 これまで社内に散在していた情報(ドキュメント)を連鎖・連携させることが、情報共有と検証、過去の知見を活用する再利用に直結することは想像に難くない。それはつまり、IBMが提唱する継続的エンジニアリング成功のために必要な要素とする「エンジニアリング情報共有」「継続的検証」「戦略的再利用」に他ならない。

 オリンパスでは今後、製品ライフサイクル管理に必要な部品変更情報なども開発部門と製造部門で共有・連携させ、医療事業部全体の製品に関する情報を統合させる計画だ。着手は設計図や仕様書、マニュアルといったドキュメント類の管理からであるが、順を追って情報の整理と統合をツールスイート導入によって推進することで、製品についての情報共通が進み、ひいては製品の継続的な検証、開発した製品から得た知見の再利用までも行える体制を構築していくことが可能となる。

 きっかけは業務プロセスに関するドキュメントの整理かもしれないが、継続的エンジニアリングの導入は個々の業務最適化のみならず、製造業としての全体最適化も進め、製造業としての「あるべき姿」を実現する一助になるはずだ。

海外での状況は? どのように導入を成功させるか

 主に法規制や派生製品の多さが理由で、「継続的エンジニアリング」の概念が他に先駆けて自動車業界や医療機器業界でのツール導入として浸透しているが、IBMのツールスイートの事例だけを見ても海外では航空機器メーカーやファクトリー・オートメーションでの利用が進んでおり、部品点数の多さやトレーサビリティの必要性の高い分野ほどニーズが高いように思える。

 導入におけるポイントは、特定の課題を解決するための目的意識と導入に向けたリーダーシップもさることながら、まずは無理せずに特定のポイントに的を絞ることも重要だ。そして、その効果は企業や導入内容によっても異なるため、その見極めが必要になってくる。

 例えば、コードの再利用はツール導入後の数字としての効果も大きい一方で、マニュアル類を始めとしたドキュメントなどの情報共有では効果が出てくるまでに時間がかかる。こうした差異を認識しつつ、「モノづくり」において重要となる資産やノウハウの継承がうまく行えるよう、その先の展開を見据えてみてほしい。モノづくりというと昔ながらの手法からなかなか抜け出せないケースも多いかもしれないが、実際に取り組みの早い欧米でツール導入の効果がみられるなど、競争力とスピード感を維持するうえで先行事例は参考になる。

 次回はそのような導入事例として、自動車部品メーカー大手の独ボッシュの問題解決までの過程とツール活用例をより具体的に見ていこう。

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2016年3月14日

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